昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~ふたまわり・第二部~(二十)の七と八

2011-10-21 22:20:29 | 小説


その年の六月、朝鮮動乱勃発。
そして朝鮮戦争特需で、日本経済は回復軌道に乗った。
熱い夏の盛りがやっと終わり、朝夕にはしのぎ易い風が吹くようになった。
青息吐息だった富士商会も、朝鮮特需の好景気によって飛躍的に業績を伸ばした。
大量に買い込んでいたあらゆる物が、あっという間に捌けたのである。
病み上がりの武蔵も、あちこちの取引先からの要請で、日本中を飛び回った。
“疲れた・・・”と言う言葉を禁句にしていた武蔵だが、
この時ばかりは頻繁にこぼしていた。
心配げに見守る五平だったが、その五平自身もGHQの将校達との接遇に追われた。
新たに着任してくる将校達のオンリー探しやら、
帰国する将校達のオンリーの処遇に追われていたのだ。



「五平よ。慰安旅行にでも、行くか?
正直、疲れた。
熱海辺りにでも、繰り出すか。
女連れで、銀座もないだろう。
同じ金をかけるなら、一泊でドンちゃん騒ぎでもするか?」
思いもかけぬ、武蔵の言葉だった。
むろん、五平に否と言う言葉は浮かばなかった。
「いいですなあ、社長。
社員達にも、一時は辛い思いをさせましたし・・。
それにこの夏は、休日返上で頑張ってもくれました。
パァー!っと行きますか。」
「よし、決まった!
そうだな、晦日月に入ったら臨時休業するか。
どこか、予約しておいてくれ。
金に糸目は付けるなよ。
最上級の旅館で、最高のサービスをさせろ。
それから、五平。
俺とお前の二人きりの時はな、社長はやめろゃ。
軍隊時代からの付き合いだ。
武さんで、いいぞ。」
「いやいや、それはまずいでしょう。
けじめは、付けなくちゃいけません。
私みたいな半端者が、こんないい思いをさせて貰ってるんだ。
感謝してますよ、ホントに。」
「それは、俺にしても同じさ。
五平のお陰で、GHQとの繋がりもあるんだからな。
これからも、二人三脚でやって行こうや。」

最新の画像もっと見る

コメントを投稿