昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~ふたまわり・第一部~(七)の四

2011-05-17 22:46:07 | 小説
日ごろのうっ憤を晴らすため、
“恥をかかせようよ”と言うことになった。
一座の座長に対し、
芝居が終わった折に花束贈呈の行事が組まれていた。
その役を、
澄江にやらせようと言うことにした。

当日になってその事を告げられた澄江は、
もちろん辞退した。
舞台に上がってのこと故に、
それなりの着物を用意しなければならない。
しかし澄江にそんな着物があるわけもなく、
野良仕事に出かける為のもんぺ姿で居た。

辞退させてくれと、
懇願したものの、
誰も相手にしない。
止むなく窮余の策として、
かっぽう着姿で上がることにした。
と言うのも、
演目の一つが〔 瞼の母 〕だということが幸いした。

「芝居の中から、
出てきたことにさせてください。」という澄江の機転が面白がられた。
拍手大喝采の中、
座長ではなく看板役者の慶次郎が花束を受け取った。
そうなると、
恥をかかせるつもりだった女たちの気が治まらない。

「慶次郎さまのお手を握るなんて!」
「なにさまの、
つもりなの!」
「どういうつもり!」
詰め寄る女たちの前で、
澄江はグッと唇をかむだけだった。
「いい加減にしろ!」
澄江の前に、
白馬の騎士が現れた。
そして騒ぎを聞きつけた世話役連が、
女たちをこっぴどく叱った。


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