昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

[思考停止] (三)

2013-02-22 22:38:21 | 小説

(三)

「はい、山本さん。お入りください。」

薄暗い部屋の中からお出でお出でと手招きする女医先生、まさしく女神様だ。
眩しかろうと灯りを落としてくださる。ありがたいご配慮だ。

「山本さんは糖尿病のこと、知っていますね。
合併症が恐いですからね。

はいそれでは、眼底検査をさせてもらいますよ。
大丈夫ですよ、なにも怖いことはありませんからね。

光を当てて、中の様子を見させて貰います。
眩しいでしょうけれど、辛抱してください。

まばたきしたくなっても、できるだけ我慢してくださいよ。」

実に優しく猫なで声で囁きかけられると、目の中をのぞき込まれるという恐怖感も薄らいでくる。

“そうだ、糖尿病性網膜症が怖いんだ。
失明してしまうぞ。
少しのことは我慢して、しっかり診て貰わなくちゃ。”


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