昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~(五十一)の一と二

2012-11-25 11:28:28 | 小説


(一)

「すごい人だかりでして、茂作さんに声を掛けるのも一苦労しました。」
助役の前で、守と呼ばれた男が、身振り手振りで報告する、

「それにしても、茂作さん、けんもほろろでして。
話を聞けませんでした。
顔色が悪かったところを見ると、どうも借金取りではないかと…」

「馬鹿を言っちゃいかん。
借金取りが、何で寄付を申し出るのかね。

茂作と竹田本家の名前で、こんな大金をだ。
縁戚かなにかなら分かるけれども…

うん? 待った……。
ひょっとして、娘の小夜子の? 
そうか、そうか、そういうことか。」

一人、合点する助役。
すぐさま村長の部屋に駆け込んだ。

「だめです、村長。
事情を聞けなかったようですわ。
夜にでも、私が行ってきます。」

「そうか…話を聞くことはできなんだか。
これだけの大金だ、どうしたものか。」

思案顔を見せる村長に、勝ち誇ったように告げる助役。
「問題ありませんわ、村長。
小夜子ですよ、小夜子。」

「小夜子? 小夜子がどうした。
あの娘は東京へ出て行って……、
あゝ、そうか! そういうことか。」



(二)

「村長も聞き及びでしょう。
茂作が、佐伯のご本家に対して大した口を利いたという話。

決まっておったんでしょう、もう。
だから佐伯のご本家にあのような大口を。」

「うんうん、正三坊ちゃんが入れ揚げとった小夜子じや。
どこかのお大尽を捕まえたということか。」

二人して頷きあう。
そして部屋から高笑いが響いてきた。

ほんの数時間前、テーブルに置かれた金員を睨みつけていた二人。

「大金じゃ、これは。
素性のはっきりするまでは、このままにしておかなきゃの。
まさかの時にはこのまま返すでの。」

「村長さんにお会いしたい、取り次いで頂きたい。」

山高帽に蝶ネクタイの男が、役場の受付で申し出た。
胸を反らせるその男、慇懃無礼な態度をあからさまにとる。

「あのぉ、どちらさまで?」
恐る恐る尋ねる受付嬢に、
「加藤と申す者ですが。」
と、答える。

“さっさと取り次げはいいんだ!”
とばかりに、身を乗り出して睨みつける。

「お、お待ちください。」
その気迫に気圧されて、慌てて席を立ち奥に駈けて行った。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿