長編恋愛小説 ～水たまりの中の青空～（十九）「ビッ、ビー！」

「ビッ、ビー！」
車のクラクションに、由香里は飛び出した。
「おっ、そおいぃ！」
見る見る由香里の目に涙がたまり、大粒となって零れ落ちた。

「ごめんねえ、由香里ちゃん。お父さんに、着替、、、」
由香里は大声を上げながら、母親の胸に飛び込んだ。母親の胸を激しく叩きながら、泣きじゃくった。
「バカ、バカ。お母さんなんか、大っ嫌い！」

一人、遠い地に取り残されたという思いが、いま爆発した。
「よう、戻りんさったのお。うん、うん」
お千代さんは、そんな由香里の姿に涙した。
彼もまた、もらい泣きしてしまった。

「ごめんなさいねえ、ご迷惑かけちゃって」
由香里の頭を撫でながら、母親もまた、涙ぐんでいる。

「さあさあ、中に入ろうかのお。外は、寒いですわのお。婆には、堪えるわいのお」
お千代さんの言葉に促されるように、四人は背を丸めて中に入った。
母親に抱き抱えられながら、由香里は歩を進めた。
囲炉裏を囲みながら、お千代さんの用意してくれたお茶をすすった。

「あゝ、生き返るわ。すごい込み具合だったわ、ほんとに」
「そうですか。ところで、どうですか？　進展はありますか」