三
懐かしい場所だった。
思えばここから、小夜子の人生が始まったようなものだ。
アナスターシアとの出会いが、今の小夜子の全てになっている。
「小夜子、何が買いたい。
服か?帽子か?」
「今日はね、靴。それと、バッグ。」
「靴だったら、着物用に草履を見て来い。
それからバッグもな。
外商の高井に来させるから、相談しろ。」
「えぇっ!お父さん、又どこかに行くの?」
「おいおい、分かってるだろうが。俺は人込みがダメなんだ。」
「でも…」
「心細いのか?待ってろ、すぐに高井を来させるから。」
逃げるように、その場から立ち去った。
人ごみの中にいると、どうしても軍隊時代が頭に浮かぶ。
そして決まって…。トラウマになっていた。
小夜子は一人、靴売り場の入り口で、所在なげに立っている。
そこかしこで、ヒソヒソ話が始まった。
場にそぐわぬ小娘に、視線が強い。
鼻柱が強い小夜子である筈なのに、武蔵への頼り癖が付いてしまったか?
“お千勢さんが居てくれたら・・”と、思ってしまう。
四
「小夜子さま、おまたせ致しました。」
高井が、満面に笑みを浮かべてやってくる。
一瞬、フロアが凍り付いた。
“小娘如きが、来る場所じゃないわよ!”と
蔑視の視線を浴びせていた娘に、外商部の課長が深々と頭を下げている。
「わざわざお出で頂きまして、ありがとうございます。
ご連絡頂ければ、こちらからお伺い致しましたのに。」
「武蔵が急に、出かけるなんて言いだしたんです。
この後の食事につられて、なんです。」
「そうですか、お羨しいです限りです。
ほんとに仲睦ましいことで。
会社にお伺いしましても、小夜子さまのお話の折は、
ほんとに嬉しそうにされてます。
ここだけのお話ですが、ご機嫌ななめの折は小夜子さまのお話をさせて頂きます。
そうしますと、すぐにご機嫌が直られまして・・。」
今にもあくびが出そうな、小夜子。
社交辞令に慣れない小夜子には、焦れてくる話だった。
「そうですか・・」と、笑みをたたえつつも目が笑っていない。
「長々と失礼致しました。
君、森田君。小夜子さまのご相談にのってあげなさい、粗相の無いようにね。
この森田君はこの売り場の主任を勤めておりまして、きっとお役に立ちますです、はい。」
小夜子のいら立ちに気付いた高井は、森田を呼び寄せた。
「森田と申します。先ほどは失礼致しました。」
唖然としていた店員たちが我に返る中、慌てて森田が駆けつけた。
懐かしい場所だった。
思えばここから、小夜子の人生が始まったようなものだ。
アナスターシアとの出会いが、今の小夜子の全てになっている。
「小夜子、何が買いたい。
服か?帽子か?」
「今日はね、靴。それと、バッグ。」
「靴だったら、着物用に草履を見て来い。
それからバッグもな。
外商の高井に来させるから、相談しろ。」
「えぇっ!お父さん、又どこかに行くの?」
「おいおい、分かってるだろうが。俺は人込みがダメなんだ。」
「でも…」
「心細いのか?待ってろ、すぐに高井を来させるから。」
逃げるように、その場から立ち去った。
人ごみの中にいると、どうしても軍隊時代が頭に浮かぶ。
そして決まって…。トラウマになっていた。
小夜子は一人、靴売り場の入り口で、所在なげに立っている。
そこかしこで、ヒソヒソ話が始まった。
場にそぐわぬ小娘に、視線が強い。
鼻柱が強い小夜子である筈なのに、武蔵への頼り癖が付いてしまったか?
“お千勢さんが居てくれたら・・”と、思ってしまう。
四
「小夜子さま、おまたせ致しました。」
高井が、満面に笑みを浮かべてやってくる。
一瞬、フロアが凍り付いた。
“小娘如きが、来る場所じゃないわよ!”と
蔑視の視線を浴びせていた娘に、外商部の課長が深々と頭を下げている。
「わざわざお出で頂きまして、ありがとうございます。
ご連絡頂ければ、こちらからお伺い致しましたのに。」
「武蔵が急に、出かけるなんて言いだしたんです。
この後の食事につられて、なんです。」
「そうですか、お羨しいです限りです。
ほんとに仲睦ましいことで。
会社にお伺いしましても、小夜子さまのお話の折は、
ほんとに嬉しそうにされてます。
ここだけのお話ですが、ご機嫌ななめの折は小夜子さまのお話をさせて頂きます。
そうしますと、すぐにご機嫌が直られまして・・。」
今にもあくびが出そうな、小夜子。
社交辞令に慣れない小夜子には、焦れてくる話だった。
「そうですか・・」と、笑みをたたえつつも目が笑っていない。
「長々と失礼致しました。
君、森田君。小夜子さまのご相談にのってあげなさい、粗相の無いようにね。
この森田君はこの売り場の主任を勤めておりまして、きっとお役に立ちますです、はい。」
小夜子のいら立ちに気付いた高井は、森田を呼び寄せた。
「森田と申します。先ほどは失礼致しました。」
唖然としていた店員たちが我に返る中、慌てて森田が駆けつけた。
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