昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

愛・地獄変 [父娘の哀情物語り] (十)

2010-11-06 13:07:29 | 小説
私の妻と申しますのが、
そのご主人様の
忘れ形見なのでございます。

毎日々々、
私の店の前で
泣いておられたのでございます。
御年、
十九歳でございました。
それは心細かったことでございましょう。

ご親戚筋が、
長野県におみえになるのでございますが、
疎開されることなく
ご両親と共だったそうでございます。

ご主人様のご恩への、
万分の一でもの
お返しというわけでも
ございませんが、
お嬢様のお世話を
させていただきました。

そのことが
ご親戚筋の耳に届きまして、
すぐに所帯を
持たせていただくことになった
次第でございます。

勿論、
おそれ多いと
ご辞退したのですが、
お嬢様の
「いいよ!」の一言で
決まりましてございます。

非常にご聡明なお方で、
女学校にお通いでございました。
私といえば、
ご承知の通り
ろくろく小学校にも行っておりません。

釣り合いがとれないからと、
何度も辞退をしたのでございますが。

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