昭和の恋物語り

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大長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~ (六十三)の六

2013-06-09 12:45:11 | 小説
(六)

「何ですか、聞くところによると、村長が陳情に出かけられたとか。
残念です、まことに。
どんなことかは分かりませんが、私に言っていただければと、残念に思います。
GHQのコネから、どの部署でも口利きは出来ますので。

小夜子の生まれ育った所です。
精一杯のことをさせてもらいますから。

本日から、実のところはずっと前からですが、
私の義理の父親であらせられる茂作さんに言ってくだされば結構です。

それから、子どもたちのことです。
経済的な苦しさから、上級学校への進学を諦める子はいませんか? 

是非、援助させていただきたい。
斯く言う私も、断念した口でして。

何人でも構いません。
五人が十人でも、いや全員でも構いません。

茂作さんのご推薦があれば、喜んで応援させていただきます。
是非にも大学に入っていただきたい。」

拍手喝采の鳴り止まぬ中、渋い顔の繁蔵だ。
そして、うんうんと頷いていた大婆だったが、
繁蔵ではなく茂作翁の名が出たところで目を剥いた。

「いや、婿どの。茂作じゃなくて、繁蔵ですわの?」

そんな大婆の声も、割れんばかりの喝采の中に掻き消されてしまう。
振舞い酒に酔ってしまったのか、顔を真っ赤にした男が立ち上がった。

「ずっと前からとは、あれですかの? その……」
「はっきり聞きなっせ、忠さん。」

すでに誰かが便宜を受けていたのかと、
村人に疑心暗鬼の気持を起こさせた武蔵だが、

「それは。ま、言わずもがな……と言うことで。
何にせよ、茂作さんに言ってもらえれば。」
と、言葉を濁して終わらせた。

勿論、そんな事実はない。
茂作を軽んじさせないが為の言葉だった。

突然、佐伯本家の当主が小夜子の前に座り込んだ。
茂作の罵声に対する意趣返しかと色めきたった。

「小夜子さん。あんたには、色々とすまんかった。
正三のことで、色々とあったけれども。

どうか、許してくれや。
正三はの、郵政省の官吏さまになったんじや。

行く行くは局長になって、次官さまとやらまで行かなきゃならんのじゃ。
でな、甥の源之助に任せたんじゃ。

それでまぁ、あんたに連絡をさせなんだみたいで。
勘弁じゃ、この通りじゃ。」


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