昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~ふたまわり・第二部~(十八)の三と四

2011-10-08 17:07:28 | 小説


「幸恵さん。これからよろしくね。」
「あのぉ、それって、兄の・・」
「お兄さんの何?」
「兄のお嫁さんになるということですか?」と聞きたかったが、
ぴしゃりとやられそうで声が詰まった。
「ふふふ・・。
正三さんのお嫁さんになるということ?
ふふふ・・そうかもね。」
「えぇ!ほんとですか?
お、お兄ちゃん、腰抜かすんじゃないかしら。」
「でも、内緒にね。
正三さんにもね。
だってまだ、お話をいただいてないんだから。」
「分かりました、内緒にします。」
「あなたとわたしだけの、二人の秘密ね。」
「か、感激です。」

「応援して、頂ける?」
「も、もちろんです。
小夜子さまがあたしのお姉さまになって頂けるんですから。」
「幸恵さん。
二人だけの時は、さまはやめてね。」
今この時、アナスターシアの気持ちが分かった。
喜々として、小夜子にアーシアと呼ばせた気持ちが。
更にまた、妹ができるその喜びも。
「でも、お許しが出るかしら。
なんといっても、佐伯ご本家の跡取りでいらっしゃるもの。」
「そうですね。
両親のことですから、家の格がどうとか・・・。
ごめんなさい、失礼なことを言って。」
「いいのよ。」



「でも、兄はそんなこと、気にしないと思います。
普段は両親の言いなりですが、やる時はやると思います。」
「大丈夫、幸恵さん。
その時は、その時よ。」と、小さな笑みを浮かべる小夜子だった。
「あたし、絶対に応援しますから。
もう、家に縛られることなんかないんですょね。」
「そうね。これからは女性も声をあげなきゃ。
女性が、この世の起源ですもの。
原始女性は太陽だった、よ。」
「えっと、ひら・・」
「平塚らいてふ。闘う女性の代表なの。」

あの時以来、小夜子が何くれとなく幸恵に声をかけてくる。
お昼休みには音楽室に入り込み、ピアノを引き合ってみたりする。
校庭の木陰で、今日のようにおしゃべりに花を咲かせることもしばしばだ。
今日も校庭の木陰に幸恵が行くと、かすかな寝息を立てている小夜子に出くわした。
「小夜子さ・・・」
声をかけようと近付くと、小夜子の目に涙の滴後を見つけた。
「気丈な小夜子さまがお泣きになるなんて・・・」
そっと引き返そうとする幸恵に、
「幸恵さん?」
と、小夜子の声がかかった。
「ごめんなさい、起こしちゃいまして。」
「いいのよ。
ちょっと、ウトウトしていただけだから。
どう?皆さんお変わりない?」
「はい、正三兄さんは元気です。」


最新の画像もっと見る

コメントを投稿