昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~ふたまわり・第二部~(十八)の一と二

2011-10-08 17:04:03 | 小説


あの日以来、小夜子と茂作に会話のない日々が続いた。
停学中の小夜子は、日がな一日、本を読んでいる。
前田の勧めで買い求めた、平塚らいてふ発刊の文芸誌〔青鞜〕を読み耽った。
『原始女性は太陽だった。』の一節が気に入った小夜子だった。
以来、ことあるごとに会話の中に飛び出してくる。
「いい?だからね、女性はもっと自信を持つべきなの。
女性なくして、社会は成り立たないの。
原始時代からね、女性は太陽だったのよ。」

正三の妹幸恵が、停学中の間中小夜子の元に日参した。
その日の学校内での出来事を、面白おかしく報告してくれる。
その度にお腹を抱えて笑い転げる。
日々笑うことのなかった小夜子に、次第に幸恵を待ちわびる気持ちが芽生えた。
「あぁ、笑い死にそうだわ。
ほんと、面白い人ね。」
「そうですか?
同級生は、誰も笑ってくれませんよ。」
「貴女みたいな人を妹さんに持ってる正三さんが、羨しいわ。 」
「ほんとですか?だったら、ほんとに妹にして下さい。
兄のお嫁さんになって下さい。」
「あらあら、そんなこと・・」
“ふふ・・あたしが粉かけてること、知ったらどんな顔するかしら?”



「でも、正三さんが何て思ってらっしゃるか、ねえ?」
「そんなの、大丈夫です。
もう、兄ったら!
あれ以来、何かと言うと、小夜子さんのことばっかりで。
『ほんと、綺麗だった。
小夜子さんは観音さまだ、天女さまだ。』って、毎日あたしに言うんです。
そして最後には決まって『親しく口をきかせて頂けるなんて、お前ほんとに幸せ者だよ。』もうお念仏なんです。」
「それがほんとなら、嬉しいことね。」
「あの、ちょっと聞いていいですか?」
「なぁに?」
「小夜子さま、お帰りになってから、何だか雰囲気が違うんですけど。」
「 そお?変わったかしらね。」
「はい、ずいぶんと。」
「どんな風にかしら? 」
「こんな言い方失礼ですけれど、お優しくなられた、と言うか。」
「ふふふ、やっぱりそう感じるのね。
私自身が一番驚いてるの。
多分、アーシアのおかげね。
背伸びすることはない、ってこと。
幸恵さんには、分からないでしょうね。」
「実は兄に聞いてみたんです。
そしたら、『キレイだからさ。』って、笑うんです。
何かあったの?って聞いても、ニヤッと笑うだけで。」
「正三さんって、お固いのね。
幸恵さんにも話してないなんて。」


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