(五)
「私らみたいな無粋人には縁のない世界の大スターらしいですわ。
会社の娘っ子も、大騒動ですわ。
泣き出す子もいる始末でして。
参りました、まったく。
しかしなんでまた、そんな大スターさんを調べろなんて。」
「いや、小夜子がな……」
「まさか! それがショックで、ですか? そんな大仰な。」
明らかに憤懣やる方ないといった五平だ。
「違うんだよ、五平。
単なるファンじゃないらしい。
何でもな、その大スターさんと義兄弟、じゃなくて義姉妹って言うのか?
家族になる約束をしてたらしいんだ。」
「ちょっと待ってくださいよ。」
「待て待て、五平。
相手がどこまで本気だったかは、分からん。
しかし小夜子は信じ込んでたみたいだ。
だからこその、ショックの大きさだ。
分かってやってくれよ。」
再度の連絡が入ったのは、もう夜も更けた頃だった。
「えらいことです、武さん。
小夜子さんの話は、ほんとのことでした。
トーマスに頼んだところ、詳しい事情が分かりました。」
(六)
「なんだ、ほんとのこととは。
なにを、興奮してるんだ。」
五平が武蔵を武さんと呼ぶのは、余程に慌ててる時だ。
「どうやら昨年あたりなんですがね、娘っ子が体調を崩していたらしいですわ。
そこで小夜子さんに出会って、惚れると言ったら変ですが、ご執心となったらしいです。」
「なんで分かるんだ、そんなことが。」
小夜子を奪おうとするアナスターシアに、猛烈な嫉妬心を感じる武蔵だ。
「えっと、何て言ったか……。
そう、マッケンジーですわ、服飾デザイナーの。
この男がゲロしたらしいですわ。」
得意げな話し方をする五平に対しても、怒りがこみ上げてくる。
「あぁ、もういい!
電話じゃ、だめだ。
来い、すぐに来い!」
と、思わず怒鳴りつけてしまった。
「どうしたの? 何か、あったの。」
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