昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~ふたまわり・第二部~(十七)の一と二

2011-09-30 22:24:04 | 小説


正三の意に反し、小夜子はグイグイと中程の客席に進んで行った。
帰りを急ぐ客を押しのけるようにして、
時に罵声を浴びながらも、流れに逆らって入り込んだ。
正三は、唯々謝りつづけた。
正三としては立ち見の方が良かったのだが、
小夜子は頑として中央の席を目指した。
「済みませんが、席を一つずらして頂けません?
私たち、二人なんですの。」と、無理やりに二つの席を確保した。
舌打ちしながらも、中年男は席を空けてくれた。
「どうもすみません、すみません。」
正三は何度も頭を下げて、その男の隣に座った。



「正三さん、謝ることはないわよ。
混んでるんだから、仕方ないわ。」
聞こえよがしに言う小夜子に、
「そうは言ってもね、無理をお願いしたんだから・・」と、正三がたしなめた。
「人が好いんだから、正三さんは。」
不満げに、小夜子が答えた。
明らかに不機嫌な表情を見せる男に、正三は黙って頭を下げた。
気まずい雰囲気の中、館内が暗くなり、上映が始まった。
“こんな筈じゃなかった・・”
正三の目論見は、完全に閉ざされた。
最後尾の客席後ろに設置された手すりに小夜子を立たせ、
ガードするように小夜子の後ろに立つ積もりの正三だった。
自然な形で、小夜子に接触できることを願っていた正三だった。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿