昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~(八十八) 第二の営業なんだよ、配達人は

2014-05-29 21:49:43 | 小説
(三)

一斉に、竹田に視線が集まる。
しかし当の竹田は、ただ戸惑うだけだ。

武蔵が言うように、意識をしていないのだ。
配達の人間が笑顔で配達ができるようにと、気遣っているだけなのだ。

「第二の営業なんだよ、配達人は。
増岡、お前たちは、とても大事な役目を帯びている。

倉庫番に、高齢の倉田さんを置いているのは何故だと思う? 
体力的には、若い者には勝てん。

荷の出し入れも、正直おぼつかん。
そういった意味で、皆に不満があるかもしれん」

うんうんと頷く、若い配達人たち。
若い者には勝てんと名指しされた倉田を盗み見している。

「しかし良く考えてみろ。配達の指示書を受け取ったら、どうしてる? 
倉田さんに見せてるだろうが。そして棚の番号を書き込んでもらってるな? 

そしてそこに行けば、必ずお前たちの品物が置いてある。
もう分かるな? 各自が、それぞれに探すとしたらどうだ? 

あんなに簡単に出せるか? 間違いのない品物だと安心できるか? 
配達の重要さは、その正確さだ」

うな垂れていた倉田の顔が、パッと明るくなった。

「届けに行って、間違えましたで済むか? 
二度手間だけじゃない、相手も待たなくちゃいかん。

時間はどうだ? あんなに簡単に揃えられるか? 
約束の時間に遅れたら、苦情の電話が鳴り響くぞ。

怒鳴られるだろうな、増岡たちも。嫌なもんだ、怒られるのは。
ニコニコと接することなんか、できやしない。

夕べ、飲み過ぎました。二日酔いです、今朝は。
そんな言い訳が通ると思うか」

少しきつめの言葉が飛んだ。
武蔵の視線の先には、営業の服部や山田たちに向いている。

「それで投げやりな態度やら表情を見せたら、相手はどう思う? 
品物をぞんざいに扱われたら、相手はどう思う? 

第二の営業だというのは、こういうことだ。
相手に好感を持ってもらえるように、配達人も努力しているということだ。

そして竹田が毎日のように増岡たちと談笑していることが、どういうことなのかということだ」


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