昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~(八十八) 事務の女性陣。君たちが、もっとも重要なんだ

2014-05-30 18:38:35 | 小説
(四)

うんうん、と頷きあう増岡を始めとする配達人たち、口々に竹田を褒めそやした。

「そうだよ、出掛けには『気を付けて』だし、帰ると『ごくろうさん』だし」
「それに、差し入れもしてくれるじゃないか」
「火鉢も用意してくれたし」

「最後にだ、事務の女性陣。君たちが、もっとも重要なんだ。
電話の応対を考えてみろ、。無愛想な応対をされたとしたら、どうだ。

おぉ、考えただけでも寒気がする。
出張時にな、たまにあるぞ。俺は飛び込みだ、いつも。

『生憎ですが』と女将直々に言われてみろ、頭を下げられてみろ、今度は泊めてもらいますよと思ってしまう。

逆にだ、立ったままの仲居に『生憎です』と言われてみろ。
二度と来るか! となる」

「美人の女将かどうか、それで決めてるんじゃないのかしら」
小声で囁き合う女子社員たちだ。

「又な、電話で問い合わせたときにだ、
ブスッとした声で『空いてますよ』と言われてだ、『はい、ありがとう』なんて言わんぞ。
誰が泊まるか! となる。な、上客を一人逃してしまう。

いくら美人でも、愛想の悪い女はごめんだ。ま、馴染みにでもなれば別だがな。
“こいつ、拗ねやがって”なんて可愛く見えんでもないがな。

なあ、服部。お前は身に覚えがありそうだな。
いかんいかん、また脱線した」

一斉に皆の視線が、苦笑いしながら頭を掻く服部に集まった。

「つまりだ、事務の女性陣の応対が、会社の全てということだ。
幸いにして、内には七人の女侍がいる。大評判だ、感謝しているぞ。

事ほどさようにだ、会社は全員で構成されている。

俺一人ぐらい、あたし一人ぐらいなんて考えるな! 
俺一人だけでも、あたし一人だけでもと考えてほしい」

一旦話を止めて、一人一人の顔をゆっくりと見回す武蔵だ。
そして真っ直ぐに右腕を差し出して、人差し指を立てた。

「良い言葉がある。そいつを最後に訓示を終わる。

知恵のある者は、知恵を出せ。
知恵のない者は、汗を出せ。
汗を出せない者は、立ち去れ。

以上だ」


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