昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~(五十一) 五と六

2012-12-02 12:41:32 | 小説

(五)

そして今、安堵の胸を撫で下ろす。

「村長、よろしかったですな。
それにしても、寄付金とは。」

「いやぁ、有難いぞ。
金は、幾らあっても困ることはない。」

その日の内に、寄付金のことが村中に広まった。
竹田の本家に助役が向かい、繁蔵共々茂作翁の家に。

繁蔵の声掛けに、「な、なに用です。」と、驚きを隠せない。

「なんで黙っておった? 
こんな慶事を教えてくれんとは、どういう了見じゃ。
ま、いい。なんにせよ、目出度い。」

「わ、わしはまだ、承諾しとりませんでの。」
悦に入る繁蔵に、口を尖らせる茂作。

「なにを言うんじゃ! 
先夜の佐伯ご本家に対する失礼も、このことからじゃな。
 
お前が何と言おうとこの話はまとめるんじゃ! 
これは竹田本家の命じゃ。」

普段ならば、ここでシュンとしてしまう茂作だ。
しかし、ことは小夜子の結婚話とあっては、茂作も引き下がれない。

「小夜子の一生のことですわい。いくらご本家といえども、口出しは無用にお願いしたいものですわ。」



(六)

「まあまあ。繁蔵さん、茂作さん。
落ち着いて話しましょうや。

実はな、茂作さん。
わしが着いて来とるのは、ご報告がありましての。

実は、今日お見えになった加藤さんから、村に寄付金を頂きましたんですわ。
ご本家と茂作さんお二人さまからと言うことで、それぞれ十万円をの。」

寝耳に水のことだった。
竹田本家名での寄付など、思いも寄らぬ。

外堀を完全に埋められては、如何ともし難い。
蜘蛛の巣にかかった虫のように、逃げ場を失っていく。

「うぅぅ……」
唸り声を上げる茂作翁。

「お婆さまも、大喜びじゃ。
でかした! とお褒めの言葉を頂いたしの。

茂作の躾を褒めてみえた。
もう上機嫌での、明日にでも本家に来いとのことじゃから。」

繁蔵の言葉も、耳に入らない。
大きく頷く助役が、憎らしく見える。

「去ね! 去ねえぇぇ!」

搾り出すような茂作翁の声に、これ以上の長居は無用と立ち去った。

「いいか、明日にでも顔を出すんじゃぞ!」


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