(五)
そして今、安堵の胸を撫で下ろす。
「村長、よろしかったですな。
それにしても、寄付金とは。」
「いやぁ、有難いぞ。
金は、幾らあっても困ることはない。」
その日の内に、寄付金のことが村中に広まった。
竹田の本家に助役が向かい、繁蔵共々茂作翁の家に。
繁蔵の声掛けに、「な、なに用です。」と、驚きを隠せない。
「なんで黙っておった?
こんな慶事を教えてくれんとは、どういう了見じゃ。
ま、いい。なんにせよ、目出度い。」
「わ、わしはまだ、承諾しとりませんでの。」
悦に入る繁蔵に、口を尖らせる茂作。
「なにを言うんじゃ!
先夜の佐伯ご本家に対する失礼も、このことからじゃな。
お前が何と言おうとこの話はまとめるんじゃ!
これは竹田本家の命じゃ。」
普段ならば、ここでシュンとしてしまう茂作だ。
しかし、ことは小夜子の結婚話とあっては、茂作も引き下がれない。
「小夜子の一生のことですわい。いくらご本家といえども、口出しは無用にお願いしたいものですわ。」
(六)
「まあまあ。繁蔵さん、茂作さん。
落ち着いて話しましょうや。
実はな、茂作さん。
わしが着いて来とるのは、ご報告がありましての。
実は、今日お見えになった加藤さんから、村に寄付金を頂きましたんですわ。
ご本家と茂作さんお二人さまからと言うことで、それぞれ十万円をの。」
寝耳に水のことだった。
竹田本家名での寄付など、思いも寄らぬ。
外堀を完全に埋められては、如何ともし難い。
蜘蛛の巣にかかった虫のように、逃げ場を失っていく。
「うぅぅ……」
唸り声を上げる茂作翁。
「お婆さまも、大喜びじゃ。
でかした! とお褒めの言葉を頂いたしの。
茂作の躾を褒めてみえた。
もう上機嫌での、明日にでも本家に来いとのことじゃから。」
繁蔵の言葉も、耳に入らない。
大きく頷く助役が、憎らしく見える。
「去ね! 去ねえぇぇ!」
搾り出すような茂作翁の声に、これ以上の長居は無用と立ち去った。
「いいか、明日にでも顔を出すんじゃぞ!」
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