昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~ふたまわり・第二部~(十七)の九と十

2011-10-02 16:59:03 | 小説


突然、小夜子が奇声を上げた。
道行く人が、訝しげに小夜子を見つめた。
立ち並ぶ家々の中からも飛び出してきた。
慌てて正三は、立ち竦んでいる小夜子の元に駆け寄った。
「どうしました?足でもくじきましたか?」
足元を見つめている小夜子に、声をかけた。
「もう!正三さんが悪いのよ!見て、これ。」と、足元を指差した。
正三が見ても、特段変わった様子もない。
細かい石ころが転がってはいるが、その場所が特に多いわけでもない。
中心街から外れた場所では、舗装が行き届いていないのは当たり前のことに思える。
首をかしげている正三に対し、小夜子がそっと足を上げた。
「犬の糞を踏んじゃったの!この靴、おニューなのに。」
憤慨する小夜子に、
「あぁ、こりゃひどい。ちょっと、待って。」と、その場に腰を屈めた。
真新しいハンカチを取り出すと、赤い靴の汚れた部分を拭き取った。



「嫌だわ、もう。田舎じゃあるまいし、キチンと始末しておいて欲しいわ!」
小夜子の元に集まった人々を、キッと睨み付けた。
「ごめんなさいね、お嬢さん。野良犬の仕業でしょう、きっと。」
「災難だったねぇ、まったく。」
口々に慰めの言葉を掛けてくれるが、小夜子の険しい表情は緩むことはなかった。
「物は考えようさね、嬢ちゃん。運が付いたと、思いねえ。」
「そりゃそうだ。犬のウンコが付いて、運が開けるかもよ。」
どっと笑いが起きたが、小夜子は気色ばんで金切り声を上げた。
「冗談じゃないわ!なんて失礼な人たちなのよ、もう!」
「小夜子さん、そう目くじらを立てなくても・・。
悪気があっての言葉じゃないんだから。」
正三は、集まった人に頭を下げながら、ハンカチの始末を頼んだ。
「はいはい。お兄さん、わたしが捨てておきますよ。」と、お婆さんが受け取ってくれた。


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