昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~ふたまわり・第二部~(十七)の七と八

2011-10-02 16:55:58 | 小説


妖艶な目つきで、小夜子が正三に問い掛けてきた。
虚を衝かれた正三は、
「えっ!家出、ですか?はっ、はい、勿論です。
その時には、寮を出てでも、小夜子さんを迎え入れます。」と、
しどろもどろになりつつも、最後はきっぱりと答えた。
「うふっ、頼もしいわ。」
頬杖をつきながら、小夜子が軽く片目を瞑った。
それが何を意味するのか、正三はドキリとさせられた。
「ねっ、少し公園ででも、休んでいきません?」
思いもかけぬ言葉だった。
「僕は良いけど、小夜子さん、遅くなってもいいんですか?」
「いいわよ、少しぐらい遅くなっても。」



“いいわよ、遅くなっても”
小夜子の言葉が、正三の頭の中を駆け巡る。
“公園に・・と言うのはどういうことだ?
額面どおりに受け取ってもいいのか?
それとも、考え違いだろうか・・”
小夜子は、そんな正三にお構いなしに、さっさと歩いて行く。
正三を急かせるように時折振り向いて、あからさまに不満げな表情を見せている。
「正三さん、遅いわよ!」と、軽く睨み付けてもくる。
その度に、正三も歩を早める。
小夜子はそんな正三を確認すると、又さっさと歩き出す。
“待っててくれても、いいじゃないか!”
そんな不満を感じつつも、
駆け寄るような真似だけは、正三のプライドが許さなかった。
姉に叱られながら後ろを追いかける弟、そんな具合に見えた。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿