昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~ (六十六) 九

2013-09-22 11:42:23 | 小説
(九)

「それは、旦那さまとご結婚できたから、ということですか?」

小夜子のおのろけと思った娘から声が飛んだが、小夜子はキッと睨みつけた。
自尊心を傷つけられたと、怒りの目を向けた。

「女優さんは、大変なの! 
大スターの引きで出演すると、いつまでたってもその女優さんを追い越すことはできないわ。
それにその女優に、いつまでも負い目を感じるでしょうし。

もっともその前に、アーシアが許さなかったでしょうね。
とに角、あたくしにべったりでしたから」

「ごめんなさい、悪い口でした」
と、消え入りそうな声が小夜子の耳に届いた。

「あたしこそ、声を荒げてしまって。
まあね、周りの人から見れば、タケゾーに嫁ぐあたしは玉の輿でしょうね。

でもね、タケゾーに拝み倒されての婚姻なのよ。
とに角あたくしは、アーシアと世界を旅することに決めていたから」

「お可愛そうですわ、小夜子さま。
アナスターシアがあんな亡くなり方をするなんて、思いもかけぬことだったでしょうから」

「そうね、ほんとに。
あたしが付いていてあげれば、きっと死ぬなんてことは……」

小夜子が目頭をそっと押さえると、
取り囲んだ娘たち全ても、それぞれにハンカチで目を押さえた。


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