昭和の恋物語り

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大長編恋愛小説 【ふたまわり】(一)の3

2011-02-15 19:59:57 | 小説
新兵として軍隊入りした武蔵は、
やはりその苗字により侮蔑的な扱いを受けた。
通常交代制で行う便所掃除当番を、
永続的に古参兵から命じられたのだ。
上官である曹長達も、
その事実を知りつつも、
黙認している始末だった。
そしてもう一人、
女衒を生業としていた加藤五平が
便所掃除の当番を命じられていた。
五平も又
“女で喰わせて貰った男”
“女の下の世話をした男”と侮蔑され、
忌み嫌われていた。
特に農村出身の兵卒からの攻撃は激しく、
毎日が地獄の日々だった。
生傷の絶えない五平に対し、
武蔵は親近感を覚えた。
「いいんですよ、
武さん。
どうせ、
あたしゃ人間じゃぁありませんから。
真っ当な人間じゃやれないことを、
生業としてきたんですから・・」
「五平のお陰で、
飢えを凌いでこれたんだろうが。
納得ずくの筈じゃないのか。
借金のカタに無理やり、
と言うのじゃないだろうに。」
「まっ。
そりゃ、
そうなんですがね。
へへへ・・」
そんな二人の間にいつしか強い連帯感が生まれ、
血を分けた兄弟よりも強い絆を持たせた。
そしてこの出会いが、
終戦後の二人にとって
どれ程に重要だったことか。
更には、
便所掃除当番を
長年勤めたことが
如何に有益だったことか。


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