長編恋愛小説 ～水たまりの中の青空・第二部～ (六十六) 一

（一）

突き抜けるような青空の下、嬌声を上げながら白い飛沫に追いかけられている小夜子の姿があった。

「ほら、ほら。また来たぞ！　急げ、急げ。
捕まったら、今夜の食事は格下げだ。」

武蔵の声が、小夜子を急き立てる。
砂地の上に海水にまで足を取られては、小夜子ならずとも機敏な動きは容易ではない。

「イヤ、イヤ、バカ！」
と声を上げながら必死に足を動かす小夜子に、容赦なく白い飛沫が迫ってくる。

すんでのところで逃れた小夜子に、また容赦ない声が飛ぶ。

「ほら、今度は引いていくぞ。
追いかけろ、追いかけろ！」

「波の頭を叩いて来い！　
うまく行ったら、ニューモードだ」

武蔵は、麦わら帽子を頭にかぶり、ビールを喉に流し込んでいる。
突き刺す陽射しの下、はしゃぎ回っている小夜子を眩しく見ている。