昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

心象風景  第三弾:【ある時の彼女】 (八)

2010-05-28 20:26:34 | 小説
(立ち止まった彼女)

つまり、
子どもの泣き声に
傍観者であることを
忘れてしまったのだ。
世の流れに浸ったのだ。

その時、
彼女は何か自分の体の中を勢いよく走るものを感じた。
彼女の曲がった腰を伸ばしたのだ。

傍観者であり、
悲劇の主人公であった自分が、
一人芝居の中から
引っぱり出されたのだ。
勿論、
一瞬間のことだ。

それ故、
彼女は立ち止まったのだ。
そして立ち止まるなり、
自分を自分であると認識できなくなったその時間、
1/10秒いや 1/100秒の間に、
その子どもを抱きしめたいという衝動にかられた。

そして、
子どもは、彼女の胸の中で泣き叫んでいた。

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