昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

原木 【Take it fast !】(九)初恋

2024-07-18 07:58:25 | 物語り

その女子は真面目派より一学年下だったが、幸か不幸かふたりと同じバレーボール部だ。
ゆえに、放課後にふたりに帯同すれば、ひんぱんに会える。
行動派が部活動に熱心なこともあり、ヒネクレ派も必然とがんばっている。
そんなふたりを待つという口実のもとに居残りをきめこんでいた。

三年ほど前の夏季大会ののちに、理由は分からないが部員ゼロとなってしまった。
そして今年までの三年間、廃部となっていた。
そんな男子バレーボール部を、行動派が復活させたのだ。
気乗りのしないヒネクレ派をムリヤり入部させ、ほかに数人の幽霊部員を仕立て上げた。

大会ごとに集合して、試合前のわずかな時間だけ練習をする。
そして作戦も何もなく、むろんコーチもいない。
どころか、役割すらあいまいだ。
皆がみなアタッカーであり、やむなくレシーバーやらセッターにもなる。
正直、勝てるはずがない。

もちろん、真面目派も部員ということになっている。
ただまるで運動音痴の彼が、練習にはいることはない。
雑務のマネージャー的仕事をしているだけだ。
タオル渡し、飲料水管理だ。
そうそう、審判へのタイム宣告だけは、顧問の教師、行動派の指示のものとにおこなっている。

練習に参加する者はたいてい3・4人ほどで、
対外試合直前に10人ほどが参加してくる。
顧問の教師もいるにはいるが、経験のない名前だけのものだった。
ゆえに、女子部員とともにの練習の日々である。
といっても、女子部員たちの休憩時間中だけだが。
なにせ女子は県大会の常連だ、この学校では運動部で、一、二を争う勢いのあるチームだから。

わたしにたいする、ヒネクレ派の冗談混じりの
“体力づくりにでも参加しろよ”という、誘いにすぐに乗ったのは、その女子生徒が部員だったせいだった。
ひょっとするとヒネクレ派は、そんな真面目派の思いに気づいていたのかもしれない。

もっとも、話をする機会もなく、話しかけることもできずにはいた。
それでも、真面目派の男にとっては、同じくうきを吸っているだけで幸せな気分にひたっていた。
ヒネクレ派の話から聞こえてくるその女子生徒は、タイプとして内向的な男はキライだという。
それが少なからず、真面目派の男にショックを与えた。
そのことからの、発奮であった。

 ”十七歳を境とし、過去と決別する!”
そんな決意は、だれも知らない。もちろん、ふたりも。
しかし、その兆候は見えはじめた。
体力づくりと称してのランニングだけとはいえ、部活動への参加。
そして自習時間中の発言。この男にとっては、並々ならぬ精進である。
肉体的苦痛はさほどでもないが、精神的苦痛ははげしい。
ときとして、喉がヒリヒリとするほどに緊張している。

 



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