昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

にあんちゃん ~警察署の一室においてのことだ~(六)

2016-01-11 11:58:49 | 小説
自宅に戻るやいなや、孝男の怒声が飛んだ。

「道子、ほのかはどこなんだ! 
そもそも、なんで介護士なんだ。ほのかにはどこでもあるんだぞ。
銀行が良ければ入れてやるし、商社が良ければ話をつけてやれる。
公務員はどうだったんだ。
なんで、なんで、あんな老人のばかりのところに…」

 苦渋に歪んだ顔を見せて、力なくソファにへたり込んだ。
そんな孝男を勝ち誇ったような表情で道子が見下ろす。
「あなたには分からないの、ほのかの気持ちが」
 と、詰るように言った。

どういうことだと顔を上げる孝男に
「お婆ちゃんよ、お婆ちゃんのこと。それが引っかかっているの、今でも。
キチンとしたお別れをしていないでしょ」
 と冷たく言い放った。

「お別れしていないって、あれは、父さんが…。しかしそれがどうして、介護士なんだ」
「あなたから逃げ出したいという気持ちもあったでしょうね」

「どういうことだ、それは。ほのかには十分なことを、いや、子どもたちには不自由な思いはさせていない。
みんなそれぞれに好きなことをさせているじゃないか」
 何の不満があるのか、と道子をにらみ付けた。

「ま、ツグオは別だが。あいつはだめだ。どうしようもない奴だ」
「それよ、それ。ほのかはね、あなたのそんな偏執さが我慢できなかったの。
自分だけが特別扱いされて、特にツグオに対する冷たさが耐えられなかったの」

「馬鹿な! あいつはだめだ。何をやらせても、ナガオの足下にも及ばん。情けない奴だ」


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