昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~ふたまわり・第二部~(二十一)の十一

2011-11-03 00:01:16 | 小説
十一

武蔵の変化に気づいてはいた。
弱気とまでは言わぬまでも、猪突猛進さが失われたとは感じていた。
疲れを知らぬ邁進ぶりが、なりを潜め始めたと感じていた。
病み上がりのせいか、とも思える。
いや、そう思いたい五平だった。
「しかしタケさん。
あの親分、やってくれましたなぁ。
タケさんの仇討ちとばかりに、あの三国人に・・」
「おいおい、滅多なことは言うなよ。
犯人不明ということになってるんだ。」
「そうでした、そうでした。」
「しかしまさか、あそこの娘が嫁いでいたとはな。
まったく肝を冷やしたぜ。」
「あいつら、問答無用ですからねえ。」

「俺の後継者は、五平、お前だぜ。」
突然のことに、危うく酒を噴出しそうになった。
「何を言い出すんですか。
坊ちゃんを作ってください、今その話をしたばかりじゃないですか。」
「いや・・。
運良く息子を授かったとしても、こんな商売はやらせられん。
堅気の会社に勤めさせる。」
波々と注がれた酒を一気に飲み干し、また大きくため息を吐いた。
「タケさん!怒りますよ、まったく。
どうかしてる、今夜のタケさんは。
堅気の会社にすればいいじゃないですか!
タケさんが頑張って、坊ちゃんに安心して継がせられる会社にすればいいんだ。
タケさん、あんた今何歳です?
やっと三十を越えた若造ですぜ。」
「そうだな、そういうことだな。」
「まず、嫁さんですよ。」
「分かった、分かった。」


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