昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~ふたまわり・第二部~(三十一)の五

2012-03-11 20:41:38 | 小説



「どうしたの?ニヤニヤして…。思い出し笑いなの?」
“ククク…”
時折小さな笑い声を出している武蔵だ。

「いや、なに……。
小夜子が初めて来た時の、縮こまった姿を思い 出してな。
ククク…」
我慢できずに、バンバンと膝を叩いて大笑いした。

「やぁな、お父さん。
誰だって、初めてのお宅じゃ緊張するでしょ うに。
まして、赤の他人よ!」

口を尖らせて反論する小夜子に、
「それが今じゃ、な!」と、武蔵が言う。
「今じゃ、って何のこと!」
「そう、尖がるなって。
美人が台無しだぞ。」

「ふんだ!
おかめおたふくで、結構です。」
ぷぅーと頬を膨らませる、小夜子だ。
「どうだ、小夜子。
一度、会社に顔を出さんか?」

突然、真顔の武蔵が言う。
「会社に? あたしが?…」
「あぁ、顔合わせだ。
小夜子に、俺の社長姿を見せるのもいいかな? と思ってな。」
「なに、それって。
惚れさせようって、魂胆かしら?」

「ハハハ、小夜子にはかなわん。
全て、お見通しか?」
「そうよ。
お父さんの考えることなんか、お見通しよ、全部。」

腰に手を当てて胸を反らせる小夜子に、最敬礼の姿勢を武蔵が見せた。
「参りました、小夜子さま。」
「うん、分かればよろしい。」
と、ますます反り返る小夜子だった。

そろそろ外堀を埋めて、
小夜子の心中に武蔵の伴侶になる心積もりを抱かせようと、考える武蔵だった。
会社に顔を出させることで、社員に対して小夜子を妻として認知させる。

そしてその空気を小夜子に感じさせる。
必然的に、武蔵を男として意識することになる小夜子。
それを狙ってのことだ。


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