昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第一部~ (六) ミタライ君にアタックする

2014-11-29 13:28:00 | 小説
高木の家に二人して来る途中、真理子は照子に頼み込んでいた。
「照子、お願いがあるの。今夜、照子の部屋で泊まり込んだことにして。
私、ミタライ君にアタックする。
今夜限りになるかもしれないけど、それでもいいわ」

真顔で頼み込む真理子に、照子は驚きを隠せなかった。
彼に対する真理子の気持ちを知ってはいたが、そこまで思い詰めているとは予想だにしていない照子だった。
「いいの? それで。何だか、恋人がいる感じだったじゃない」

そんな約束事を交わしての事だったが、照子と広尾の関係を知ってから真理子の決意はより強いものになった。

「ミタライ君、運転は?」
真理子は車をスタートさせると同時に、彼に問いかけた。
彼は車内に漂う甘い香りにドギマギしていた為、真理子の声をはっきりとは聞き取れなかった。
「うん、何?」
「だから、免許証は持ってるの?」

これから取るべき大胆な行動に、思考の大部分が占められている真理子は、彼の鈍感さに苛立ちを感じていた。
「車の免許証? いや、持ってないよ」
”麗子さんにも聞かれたな、そう言えば。やっぱり持つべきなのかな”
「うぅん、別に意味はないの。唯聞いてみただけ」
真理子は車のスピードを徐々に上げた。
「ねえ、私の運転、恐くない?」

「いや、別に。もうどの位なの、経験は」
「えっ? そんな経験なんてねないわよ」
真理子は顔を真っ赤にしながら答えた。
真理子の頭の中には、彼との初体験の事が渦巻いていた為、彼の質問の意味を取り違えてしまった。

「ないって。じゃあ、初めてということか。免許取り立てなんだね。じゃあ、初乗りなんだ」
「あぁ、運転のこと。もう二年よ。卒業してすぐに取ったの。
親は反対したけど、それを条件にして家を出ることを止めたんだから」
とんちんかんな答えをした自分に、彼がどんな反応を示しているのか気になる真理子は、チラリチラリと彼の横顔を盗み見した。

「へえ、そうなんだ」
我慢できずにあくびをする彼に、真理子は安心すると共に一抹の淋しさも感じた。
”私を女として見ていないのかしら”
「ミタライ君、眠いの? だったら、寝てていいよ。着いたら起こしてあげる」
「いいのかい? 有り難いけどさ。ごめん。じゃあ、着いたら起こしてくれよ」
と、睡魔に勝てない彼は、シートを少し寝かせた。
「いいわよ、遠慮しなくて。結構な量を、飲まされてたもんね」

そんな真理子の言葉に反応することなく、彼は小さな寝息を立て始めていた。
決意をしていたつもりの真理子だったが、いざとなると迷いの心が湧き上がっていた。
しかし今、眠りについた彼を見ると
”よし! 真理子、このまま行っちゃえ”
と、自分を鼓舞した。


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