昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~ふたまわり・第二部~(二十三)の一と二

2011-11-11 22:15:30 | 小説


徳利を提供しようという客に対して、いやそもそも、客に対する返答ではない筈。
それでも本音をさらけ出した女将に対し、武蔵は好感以上のものを感じた。
「でも、今のわたくしには、素敵な殿方でございます。
女将としての修行をさせて頂いた、大事なお客さまでございます。」
「女将。おためごかしな言い方は、やめようや。
厭な客だと思われても仕方がないさ。」
「いえいえ、御手洗さま。本音でございます。
確かに昨夜は厭なお客さまでございました。
でも、今朝の御手洗さまをお見かけしてわたくしの考えが間違っていたと、
気付かさせて頂きました。」

「どういうことです?」
「会社経営をなされていますお客さまが、
いかに大変なご苦労をなされているか、
いかに大きなご心痛をお持ちになっていらっしゃるか、思いが至りませんでした。」
「それを、今朝の僕に見た、と?」
「はい、海を眺めていらっしゃる御手洗さまに。
あらあら、これは。大変失礼なことを申し上げまして・・。」
深々と頭を下げる、女将だった。



「女将と、一戦交えたいものですなあ。 」
突然、武蔵が言う。
「あらあら、こんなおばさんでよろしいんですの? 」と、受け流す女将。
「その色香は、そんじょそこらの女どもでは出ません。
口はばったいですが、僕も年の割には遊んだと自負しています。」
なおも食い下がる武蔵。
「まぁ、まぁ、まぁ、どうしましょう。
都会の殿方はお口が、お上手ですから・・。
でも、おからかいもほどほどに。
でないと、大やけどなさるかも・・・」と、妖艶に。

「社長、おはようございます。
いゃあ参りました。二日酔いです、完全に。
社長は大丈夫ですか?」
「おやおや、専務さんはお弱いんですね。 」
朝の光に目を細めながら現れた五平に、女将が声をかけた。
「女将、言ってくれるね。
弱くはないんだ、わたしだって。
弱くはないんだが、この社長が底なしなんだ。 」
「ほんとに。ひょっとして、ご酒が血液で、体中を回っていらっしゃるとか?
ほほほ、失礼しました。」
「女将も、いけそうだね。どう、一丁勝負しますか。
そうだな、僕が勝ったら女将の操を貰おう。
万が一僕が負けたら、僕の操を捧げますよ。」


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