昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~(九十二) 跡継ぎが欲しいのよね

2014-07-18 09:07:19 | 小説
(六)

千勢の悲痛な声が飛ぶと同時に
「社長は大丈夫です。飲みすぎられただけですから」
と、竹田が声をかぶせた。

「いや、すまん。飲みすぎたみたいだ。
今夜は、竹田ら若手と飲んだんだ。
将来の幹部社員たちの、今の気持ちを聞いておこうと思ってな。
そろそろ跡継ぎも欲しいし、こいつら若手に盛り立ててもらわなくちゃいかんしな。
万が一跡継ぎに恵まれなかったら、誰かに跡を継がせなきゃいかなくなるしな。だから…」

「ご苦労さま、竹田。もう帰っていいわ」
と、相変わらずの突っ慳貪な口調で言った。

「はい。それでは、おやすみなさい」
と、竹田。その竹田を、通りまで千勢が見送った。いつもの光景だった。

ソファに武蔵を座らせ、床に正座をする小夜子。
異様な雰囲気に気付いた武蔵も、慌てて床に正座した。

「いや、悪かった。こんなに飲むつもりはなかったんだ。
なかったんだが、あいつらがあんまり嬉しいことを言ってくれるものだから、ついつい。
すまん、二晩続けてはまずい。しかも、小夜子の体調が悪かったのにな」

頭を床にこすり付けんばかりにする武蔵。機先を制したつもりだった。

「あなた、跡継ぎが欲しいのよね」
思いもかけぬ小夜子の言葉に、怪訝な顔付きで
「あぁ、欲しい。欲しいけれども、俺の気持ちだけでは…」

「できました、赤ちゃん。今日、病院で確かめてきました」


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