昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空~(九十三) 帝王学を教えるさ

2014-07-19 11:21:09 | 小説
(一)

少しずつせり出すお腹をさすりながら、いら立つ気持ちが湧いてくるのを抑えることができない。
痩せ型だった小夜子が、みるみる太目の妊婦特有の体型に変わっていく。

「いいか、小夜子。退屈だろうけれども、家で大人しくしていてくれ。
大事な大事な跡取りなんだから。
その代わりに、小夜子の欲しいものは何でも揃えてやるから。頼むぞ、小夜子」

武蔵は男だと決めつけてくる。小夜子にしても男の子が欲しいと思っている。
しかし頭ごなしに言われると、つい反発したくなってくる。意地悪を言ってみたくなる。

「男の子と決まったわけじゃないのよ。女の子かもしれないわよ。
あたしの家では、女の子ばっかりみたいよ。『わしは特別じゃった』って、よく話してたから」

「大丈夫だ。俺の家系は、男系だ。
女が生まれたって話は聞いたことがない。だから男に決まってる。
夜の生活で強い方の家系になると、以前聞いたことがある。
ま、百歩譲ってだ。女の子だとしても、特段のことはない。
その子に会社を継がせる。女社長だ、小夜子二世さ。
今の時代ではまだ珍しいけれども、やれないわけじゃない。
それが証拠に、立派に女主人として頑張っている女性は、世の中に五万といる」

小夜子に耳障りの良い言葉が、ポンポンと出てくる。
新しい女だと自負する小夜子の自尊心をくすぐることにかけては、武蔵の右に出る者は居ない。

「例えば旅館業だ。
今、販路の拡大を図っているけれども、女将として立派に切り盛りしている女性は多い。
それに、美容院もだ。こうしてみると、客商売に多いな。
一般的に、女は大所高所からの判断ができないと言われる。
しかしそれは、違うぞ。女だから経営能力がないと言うわけじゃない。
そういった教育を受けていないから、その能力が花開かないだけだ。
御手洗武蔵の子どもには、男であれ女であれ、キチンと帝王学を教えるさ」



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