長編恋愛小説 ～水たまりの中の青空・第一部～ （八） ミタくうん、浮気しちゃおうかあ

「そう、そんなものかなあ。男性ってさ、ある時期を過ぎると急に威張り出すのよねえ。
のぶこの彼も、そのタイプかあ。
でも、のぶこも不思議。何もバツイチの男性を、好きにならなくても良いでしょうに。
ここに素敵な男性が居るじゃない、ねえ、ミタちゃん？」

突然の耀子の言葉に、彼は口にしていたピザを危うく吹き出すところだった。
むせびながら、
「止めてくださいよ、急に」
と、のぶこの表情を盗み見した。

「うふふ、ホントね。ねえねえ、ミタくうん。やっぱり浮気しちゃおうかあ」
隣り合って座っていたのぶこが、彼にしなだれかかってきた。
甘い香りが彼を包み、少し茶系の髪が彼の頬をくすぐった。

「あははは。純情よ、ミタちゃん。真っ赤になってる。
のぶこ、今夜ミタちゃんと泊まって行きなさい。わたし、ホテルにでも行くからさ」
耀子に囃し立てられたのぶこは、
「そうしょっかあ、ミタ君。あっ、でも彼女に悪いかな？　ミタ君、モテそうだもんね」
と、彼の腕を抱え込むように抱きついてきた。

のぶこの胸の膨らみが、彼の二の腕に当たってきた。
彼の心臓が早鐘のように、激しく波打った。
「ごめん、ごめん。ちょっと、ハイになりすぎちゃった。耀子、ミタ君に謝って！」
「そうね。ミタちゃんには、刺激が強すぎるかしら」

そんな二人の会話に、”良いですよ、僕は。”と、心の中で呟きながらも、俯いてしまった。
“のぶこさんとなら、愛欲の世界にどっぷりと浸りです”と、のどまで出かかった言葉を呑み込んだ。
彼の知る女性達とは異質の雰囲気に、彼は戸惑いの連続だった。
良いようにあしらわれ続けているのだが、反面嬉しさを隠せなかった。
ただ、苦笑いをするだけだった。