(三)
「小夜子ー、いらっしゃあい!」
野太い声が、小夜子を待ち受けていた。
「梅子姉さあん、梅子姉さん…」
突如小夜子の目から、大粒の涙が溢れ出た。
梅子も竹田も、びっくりだ。しかし最も驚いたのは、当の小夜子自身だった。
悲しい思いなど、まるでないのだ。
「ど、どうした? 何かあったのかい?
そうか、また武蔵に悪い癖が出たのか。
で、どこの店の女だ? まさか、内の店じゃないだろ?
それとも、出張先かい? 病気だからね、武蔵の女遊びは。
よしよし。今度店に来たらたっぷりととっちめてやるよ。
大丈夫、大丈夫だから。この梅子姉さんに任せときな」
と、赤子をあやすように、小夜子の肩を抱いてやる梅子だった。
「ちがうの、ちがうの、梅子姉さん。
べつに悲しくなんかないの。
なのにね、涙がね、出てくるのよ。おかしいでしょ、こんなの」
笑いながら涙を拭く小夜子だけれども、溢れる涙は止まらない。
「大丈夫、大丈夫。おかしくなんかない。
いいじゃないか、な。悲しくなくても、泣いたっていいじゃないか。
この梅子さんにもあるんだから。
仕事を終わって、アパートに帰って、お風呂から上がって、窓の外を見るんだよ。するとね、すーっとお日さまが昇ってくるんだ。
するとね、どうしてだか、涙がこぼれるんだよ。
きれいだね、って声を出したりしてね。
誰が居るわけでもないのにさ。
おかしいだろ? それから、神さまにお礼を言うんだ。
あぁ、今日も一日無事に終えることができました、って。
これから休みますが、このまま召されても構いせん。
明日また生を受けられるますなら、どうぞ健康体でお願いします、とね。
病に罹っちまうと大変だからね、独り身は」
「小夜子ー、いらっしゃあい!」
野太い声が、小夜子を待ち受けていた。
「梅子姉さあん、梅子姉さん…」
突如小夜子の目から、大粒の涙が溢れ出た。
梅子も竹田も、びっくりだ。しかし最も驚いたのは、当の小夜子自身だった。
悲しい思いなど、まるでないのだ。
「ど、どうした? 何かあったのかい?
そうか、また武蔵に悪い癖が出たのか。
で、どこの店の女だ? まさか、内の店じゃないだろ?
それとも、出張先かい? 病気だからね、武蔵の女遊びは。
よしよし。今度店に来たらたっぷりととっちめてやるよ。
大丈夫、大丈夫だから。この梅子姉さんに任せときな」
と、赤子をあやすように、小夜子の肩を抱いてやる梅子だった。
「ちがうの、ちがうの、梅子姉さん。
べつに悲しくなんかないの。
なのにね、涙がね、出てくるのよ。おかしいでしょ、こんなの」
笑いながら涙を拭く小夜子だけれども、溢れる涙は止まらない。
「大丈夫、大丈夫。おかしくなんかない。
いいじゃないか、な。悲しくなくても、泣いたっていいじゃないか。
この梅子さんにもあるんだから。
仕事を終わって、アパートに帰って、お風呂から上がって、窓の外を見るんだよ。するとね、すーっとお日さまが昇ってくるんだ。
するとね、どうしてだか、涙がこぼれるんだよ。
きれいだね、って声を出したりしてね。
誰が居るわけでもないのにさ。
おかしいだろ? それから、神さまにお礼を言うんだ。
あぁ、今日も一日無事に終えることができました、って。
これから休みますが、このまま召されても構いせん。
明日また生を受けられるますなら、どうぞ健康体でお願いします、とね。
病に罹っちまうと大変だからね、独り身は」
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