昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

小説・二十歳の日記  (序)

2024-07-28 08:00:52 | 物語り

「はたちの詩(うた)」という、詩から生まれた小説です。
わたしが二十歳になったときを出発点に、しています。
とは言っても、すみません、ほとんど事実ではありません。
新聞記事やら、噂話やらを、元にしています。
でも、当時の自分の思いはこめました。

*古都清乃さんという歌手、ご存知ですか、覚えてみえますか?

和歌山ブルース
串本育ち
長良川夜曲
等の、ヒット曲がありましたが。
その女性歌手をイメージしています。
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ぼくの青春は、決して灰色だとは思わない。しかし、バラ色だとも思わない。
結局、青春といういまを、考えることがなかったわけだ。
だけど、そんなぼくに「突然」ということばでさえ、のろさを感じるほどに突然、春がおとずれた。
あの瞬間、ぼくは灰色の青春であったことを意識し、バラ色であろうと、いやあるべきだと考えたことはない。
自分の人生にたいし、傍観者として対処してきたこの二十年間。
人との交わりをわずらわしいものとして、敬遠してきたこの二十年間。
「愛とは、与えること!」
信じられないようなことはじを、ぼくは口走ってしまった。
いまでも思い浮かべられるんだ、くっきりと。
そのひとは黒い緞帳のまえに、居た。

どこからともともなく流れくる歌声。
こころの奥底まで染みとおりそうな美しい声とともに、スポットライトを身体いっぱいに浴びてあらわれた。
彼女は、いのるように全身全霊を打ちこんで歌う。
派手な衣装をまとうでもなく、はでな振り付けをするでもなく、ただ宙を見つめて歌う。
そしてその瞳はいつしか潤みはじめ、くらい波間でその妖しい美しさ―― 一服の絵としての美しさ―― を、そのためだけに光りを放つ夜光虫になった。
そして、さくらんぼのような唇から流れでる声は、甘く、しかも軽やかだ。
ときに母のように、ときに姉のように、そしてときに恋人のように。

無名の歌手だった。拍手もまばらの前座歌手にすぎなかった。けれどもぼくは口走っていた。
「愛とは、与えること!」



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