伝票を繰りながら、彼は愕然とした。区域の変更が為されていた筈なのに、元の区域に戻っていた。
「あのお、課長。区域が違うんで…」
彼は井上の元に出向き、困った顔つきで尋ねた。
麗子の居る区域に戻っていたのだ。
デパート側の方針として、半年毎に区域の変更をしていた。
お客様とのなれ合いを避ける為と、複数の区域をこなせるようにする為だった。
そして、区域による数量の多寡による不平等を避ける為でもあった。
「あゝ、そのことか。今日から一週間休みなんだよ、島岡君が。
で、君に担当して貰うことにした。まっ、頼むよ」
彼を振り向くことなく、井上は言い放った。
麗子とのことは、井上には話していなかった。
と言うより、デパートに知られては、大問題に発展することであった。
「わかりました」と、彼は引き下がるしかなかった。
”困ったことになった”
彼は、麗子宅への配達がないことを祈るだけだった。
ところが、間の悪いことに麗子宅への配達はなかったが、隣の家への配達があった。
家人が居れば問題はないのだが、留守がちの家であった。
「留守時はお隣に預けて頂いて結構ですよ」という、約束になっていた。
彼は、祈るような思いであった。
「どうかしたの? 顔色が悪いわけど」
彼の傍らを通りかかった貴子が、心配気に問いかけてきた。
彼は慌てて
「いや、大丈夫です」
と、下を向いたまま答えた。
「そう、ならいいけど」
”今夜、大丈夫?”と一言付け加えたい貴子だったが、皆の居る手前、そのまま立ち去った。
「あのお、課長。区域が違うんで…」
彼は井上の元に出向き、困った顔つきで尋ねた。
麗子の居る区域に戻っていたのだ。
デパート側の方針として、半年毎に区域の変更をしていた。
お客様とのなれ合いを避ける為と、複数の区域をこなせるようにする為だった。
そして、区域による数量の多寡による不平等を避ける為でもあった。
「あゝ、そのことか。今日から一週間休みなんだよ、島岡君が。
で、君に担当して貰うことにした。まっ、頼むよ」
彼を振り向くことなく、井上は言い放った。
麗子とのことは、井上には話していなかった。
と言うより、デパートに知られては、大問題に発展することであった。
「わかりました」と、彼は引き下がるしかなかった。
”困ったことになった”
彼は、麗子宅への配達がないことを祈るだけだった。
ところが、間の悪いことに麗子宅への配達はなかったが、隣の家への配達があった。
家人が居れば問題はないのだが、留守がちの家であった。
「留守時はお隣に預けて頂いて結構ですよ」という、約束になっていた。
彼は、祈るような思いであった。
「どうかしたの? 顔色が悪いわけど」
彼の傍らを通りかかった貴子が、心配気に問いかけてきた。
彼は慌てて
「いや、大丈夫です」
と、下を向いたまま答えた。
「そう、ならいいけど」
”今夜、大丈夫?”と一言付け加えたい貴子だったが、皆の居る手前、そのまま立ち去った。
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