昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~(九十三) 白いご飯上にぶっかけてな

2014-07-23 08:56:26 | 小説
(五)

卵など、武蔵の世話をするまで千勢が食したことのないものだった。

珍しげに見る千勢に
「こうやってな、白いご飯の上にぶっかけてな、こうやってかき混ぜて食べるんだ。千勢も食べてみろ」
と武蔵に勧められて、初めて食した。

美味しいという前に、こんな高価なものをという思いが先に立ち、涙が溢れ出した。
ふと漏らした
「母ちゃんたちに食べさせて…」
と言う言葉に
「実家に持って行ってやれ」
と武蔵に言われた時、この旦那様の元にずっと居たいと思う千勢だった。

そしてその武蔵が惚れに惚れ抜いている小夜子の、武蔵のお子を身ごもった小夜子の世話を、今させてもらっている。
何としても、無事の出産をと願わずにはいられない千勢だ。

「あぁ、びっくりした。何なの、あれって。まさか、違うわよね。
千勢、やっぱりタクシー呼んで。やっぱり病院に行くわ。
どこか悪いのよ、わたし。そうよ、無理したからだわ。
お医者さまに言われてから、頑張り過ぎたのよ。
お散歩、するんじゃなかったわ。三十分のお散歩を、朝夕の二回もするなんて。
それも毎日よ。お休みしたのは、雨の日だけだったでしょ? 風の強い日も、お休みすれば良かった。
あぁ、あたし、このまま、きっと死ぬのよ。薄幸の美少女って言うけれど、あたしがそうだわ。
でもどうしてこんなに、苦しまなくちゃいけないのよ。
あたし、何か悪いことをしたかしら? 新しい女として、一生懸命に生きてきたのに。
神さま、ひどいわ! えっ? 産婆さんが来た? そうじゃないでしょ! 病院に行くのよ。
きっと悪い病気にかかってしまったのよ。あ、あ、また来た。
痛い、痛い、痛いのよ!」


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