昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

鼠小僧次郎吉 ~さると猿回し~ 十五

2010-08-11 22:24:05 | 小説
次郎吉は、
そんな腰元をなめつくすように見据えると、
薄笑いを浮かべた。

「いいか。
明晩、
実行に移すからな。
必ず裏木戸を開けておきな。
時刻は午の刻だ、
いいな。
何だよ、
その目つきは。」

「後悔しているのよ。
どうしてあの時あんたを・・」

「フン、
今更何でぇ。
俺っちはお前の秘密を握ってるんだぜ。
お前だけじゃなく、
大恩ある廻船問屋にもお咎めが及ぶぜ。
ま、いいさ。
この仕事が終わったら、
手を切ってやるさ。
心配すんな。」

次郎吉は、
勝ち誇ったように言い放った。
恨めしげに見上げる腰元の心中も知らずに。

”いっそのこと、
ここで死のうか。”

しかし、
このことで迷惑をかけるかも知れぬ廻船問屋のこと、
嘆き悲しむ両親のこと、
そして次郎吉に対する未練の気持ち、
気が狂いそうであった。

狂人になれれば、
どんなに楽であろうか。

「わかったわ。」
腰元は、
首をうなだれて力無く答えた。

外は、
月明かりの夜になっている。

夜鳴きそば屋での他愛もない話し声を聞き流しながら、
”嫌よ、嫌よ、
も好きのうち、
か。”と、
逢瀬の余韻に浸りながら次郎吉は道を急いだ。

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