昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~(七十八) 母さん、分かったから

2014-01-26 11:56:30 | 時事問題
(九)

「母さん、分かったから。死んだ父さんに言われたんだよね。
ありがとうって、言われたんだよね。

笑い顔一つ見せなかった父さんが、言ってくれたんだよね。
それが嬉しかったんだよね」

「お母さんの時代はそれで良いわよ。でも、あたしは違うの。
ねえ、小夜子さんもそうよね。違うのよね」

小夜子に同意を求める勝子だが、実のところは何が母親の時代と違うのか分からないでいる。
とに角母親のように、夫に尽くすだけの人生はいやだと思っている。

「違うことなんかあるものかね! 
女はね、旦那さまのお世話をして、子どもを授かったらキチンと育て上げて、

そして立派な人間として世間さまに送り出すものさ。
それが妻としての勤めなんだよ」

背筋をピンと伸ばして、小夜子に正対する母親。

「小夜子奥さま、あなたもですよ。
それが女としての、妻としての勤めでございますよ。
生き様でございますよ。

新しい女だとか何とか持ち上げられて良い気になってますと、
ある日突然悪意に満ちた連中に、ストンと奈落の底に突き落とされますよ。
どうぞ、お気を付けてくださいな」

「母さん、何てこと言うんだ。
小夜子奥さまに失礼じゃないか! 謝ってくれよ、謝ってくれよ。

申しわけありません、申し訳ありません。
姉さん。姉さんからも言ってくれよ」

「そうよ、そうよ。
あたしのことにかこつけて、小夜子さんを非難するなんて。

まったくどうかしてるわ! 小夜子さんのおかげなのよ、あたしが元気になれたのは。
それを、それを、よくも!」


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