(九)
「母さん、分かったから。死んだ父さんに言われたんだよね。
ありがとうって、言われたんだよね。
笑い顔一つ見せなかった父さんが、言ってくれたんだよね。
それが嬉しかったんだよね」
「お母さんの時代はそれで良いわよ。でも、あたしは違うの。
ねえ、小夜子さんもそうよね。違うのよね」
小夜子に同意を求める勝子だが、実のところは何が母親の時代と違うのか分からないでいる。
とに角母親のように、夫に尽くすだけの人生はいやだと思っている。
「違うことなんかあるものかね!
女はね、旦那さまのお世話をして、子どもを授かったらキチンと育て上げて、
そして立派な人間として世間さまに送り出すものさ。
それが妻としての勤めなんだよ」
背筋をピンと伸ばして、小夜子に正対する母親。
「小夜子奥さま、あなたもですよ。
それが女としての、妻としての勤めでございますよ。
生き様でございますよ。
新しい女だとか何とか持ち上げられて良い気になってますと、
ある日突然悪意に満ちた連中に、ストンと奈落の底に突き落とされますよ。
どうぞ、お気を付けてくださいな」
「母さん、何てこと言うんだ。
小夜子奥さまに失礼じゃないか! 謝ってくれよ、謝ってくれよ。
申しわけありません、申し訳ありません。
姉さん。姉さんからも言ってくれよ」
「そうよ、そうよ。
あたしのことにかこつけて、小夜子さんを非難するなんて。
まったくどうかしてるわ! 小夜子さんのおかげなのよ、あたしが元気になれたのは。
それを、それを、よくも!」
「母さん、分かったから。死んだ父さんに言われたんだよね。
ありがとうって、言われたんだよね。
笑い顔一つ見せなかった父さんが、言ってくれたんだよね。
それが嬉しかったんだよね」
「お母さんの時代はそれで良いわよ。でも、あたしは違うの。
ねえ、小夜子さんもそうよね。違うのよね」
小夜子に同意を求める勝子だが、実のところは何が母親の時代と違うのか分からないでいる。
とに角母親のように、夫に尽くすだけの人生はいやだと思っている。
「違うことなんかあるものかね!
女はね、旦那さまのお世話をして、子どもを授かったらキチンと育て上げて、
そして立派な人間として世間さまに送り出すものさ。
それが妻としての勤めなんだよ」
背筋をピンと伸ばして、小夜子に正対する母親。
「小夜子奥さま、あなたもですよ。
それが女としての、妻としての勤めでございますよ。
生き様でございますよ。
新しい女だとか何とか持ち上げられて良い気になってますと、
ある日突然悪意に満ちた連中に、ストンと奈落の底に突き落とされますよ。
どうぞ、お気を付けてくださいな」
「母さん、何てこと言うんだ。
小夜子奥さまに失礼じゃないか! 謝ってくれよ、謝ってくれよ。
申しわけありません、申し訳ありません。
姉さん。姉さんからも言ってくれよ」
「そうよ、そうよ。
あたしのことにかこつけて、小夜子さんを非難するなんて。
まったくどうかしてるわ! 小夜子さんのおかげなのよ、あたしが元気になれたのは。
それを、それを、よくも!」
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