5日(日)。昨日、有楽町のスバル座でドイツ映画「ルートヴィヒ」を観ました 「ルートヴィヒ」と言えば19世紀半ばに生きたバイエルン国王ルートヴィヒ2世のこと
そして、映画の「ルートヴィヒ」と言えば1972年(日本では1980年)に公開されたルキーノ・ヴィスコンティ監督による237分(日本での公開は180分)にも及ぶ作品を思い浮かべます
今回の作品はワーグナー生誕200周年の2013年を前に、2012年にマリー・ノエル監督により制作された原題「ルートヴィヒ2世」という140分に及ぶ映画です
「ルートヴィヒは15歳の時にワーグナーの歌劇「ローエングリン」を観て、白鳥の騎士ローエングリンに憧れ、ワーグナーを崇拝する バイエルン国の皇太子でありながら政治や権力には関心を示さず、芸術だけに熱中していたが、父の急死により心の準備が出来ないまま18歳でバイエルン国王に即位する
当時、バイエルン国が属するドイツ連邦では、隣国オーストリア帝国と北ドイツにある強国プロイセン王国の衝突があり、戦争の巻き添えになることが避けられない状況にあった
にも関わらずルートヴィヒは大臣たちの反対を押し切って『国民の安全に必要なのは詩と音楽による奇跡だ』として、戦争準備のために国費を使わず、ワーグナーを宮廷に招き入れ優待する
」
戦争のためではなく、芸術のために国費を使おうとするのは、ルートヴィヒが準備不足のまま国王に就任せざるを得なかったことによる未熟さ、自身のなさを反映した現実逃避だったのだと思います 映画の中でも、他国との交渉を自分で行わず家臣にまかせっきりにする無責任なシーンが描かれています
「ワーグナーはルートヴィヒの庇護のもと、自らの芸術を貫くべく多額の経費を要求し、さらにそれに反対し、戦費を増額すべきだと主張する大臣たちの罷免までも言い出す しかし、バイエルン国は戦争に巻き込まれ、大きな犠牲を払って敗れてしまう
それから十数年後、彼は自らの夢を達成すべくバイエルン郊外にノイシュバンシュタイン城を建てる。これには多額の建設費用がかかるが、支払う当てがないことに家臣が危機感を抱き城の建設を中止し、ルートヴィヒを逮捕し幽閉する
彼は担当医とともに湖へ散歩に出るが、自ら身を湖に沈め命を絶つ
」
映画では随所にワーグナーの歌劇の曲が流れます 劇場で歌われる「ローエングリン」、館の広間で歌われる「トリスタンとイゾルデ」等々
高い美意識と強烈な個性によって、誰にも理解されることなく”狂王”とまで呼ばれるまでに至ったのは、まさにワーグナーの影響に他なりませんでした
一作曲家が国家の行く末を左右するまで影響を及ぼしたのはワーグナーを置いて他にいないのではないかと思います
後半ではノイシュバンシュタイン城が映し出されます。”白鳥城”と呼ばれる美しい城です 私がその城を訪ねたのは1991年1月でしたから今から23年前のことです。元の職場にいる時、ヨーロッパ新聞労務事情視察団に同行してドイツ、フランス、イギリスの新聞社を訪問した際に、週末の郊外見学として訪ねたのです
ミュンヘンから貸切バスでアウトバーンにのってロマンチック街道を走り、やっとのことでノイシュバンシュタイン城に着きます。城は山の中腹にあるので、バスを降りてからは馬車に乗って城まで登ります もう23年も前のことなので詳細は覚えていませんが、たしか料理を運ぶエレベーターを見て感心した覚えがあります
なぜ、ルートヴィヒは政治の中心地から遠く離れた山の中腹に美しい城を建てたのか 城というのは戦争を想定して建てるものなのに、あんなところに城を建てたって戦争なんかできるわけがない、と思うほど何もないところに城が建てられているのです
やはり、彼は自らを歌劇の主人公・白鳥の騎士ローエングリンに見立てていたのでしょう
彼の人生こそ”ロマンチック街道”そのものです
当時でこそ、白鳥城はルートヴィヒ王の夢と浪費の象徴として厳しく批判されていましたが、今ではバイエルン州の重要な観光資源になっているのは、歴史の皮肉と言うべきでしょう