6日(日).昨日はラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン”熱狂の日音楽祭”の最終日でした.暖かい気候だったので上着なしで出かけました
早めに会場に着いたので,まず国際フォーラムの展示ホールに行ってみました.そこでコーヒーを飲んでこの日のスケジュールを確認しました それにしてもつまんねー写真撮ったものだねぇ
よみうりホールに移動して午前11時半からエル・バシャのピアノによるラフマニノフ「13の練習曲」(24の前奏曲全曲演奏・第2部)を聴きました(公演ナンバー381) 3日に前半の11曲を聴いたので今回は後半の13曲です.自席は1階中央右の通路側,会場はほぼ満席です
レバノン生まれでパリ国立音楽院出身者のバシャは,ステージマナーが紳士そのものです 落ち着いた物腰でピアノに向かいます.速いパッセージのアレグロからゆっくりのアンダンテやレントまで,曲が変わるごとに音の表情を変えて再現します 私はアレグロよりもゆったりした緩徐楽章の方が彼に向いているような気がします.夢見るような旋律が頭に残っています
最後の曲のフィナーレはまさに24曲を締めくくるのに相応しい堂々たる曲ですが,バシャは感情に流されることなく理知的に締めくくりました 演奏直後,会場後方の女性から”ブラボー”がかかりました珍しい出来事だと思いました.
終演が12時を過ぎていたので昼食を取りました.それから,再度展示ホールに行くと生け花「ストラヴィンスキー”火の鳥”」が飾られていました.
次に国際フォーラムCホールに移動して1時45分から公演ナンバー343のコンサートを聴きました.プログラムは①チャイコフスキー「白鳥の湖」より情景,ワルツ,白鳥の踊り,情景,②プロコフィエフ「ピアノ協奏曲第2番ト短調」で,ジャン・ジャック・カントロフ指揮シンフォニア・ヴァルソヴィアによる演奏,ピアノはエル・バシャです
会場入り口の掲示によると,「白鳥の湖」の演奏順が変更されていました.当初ワルツが2番目だったのが最後になっていました.多分,演奏効果を狙って変えたのだと思います.変更のお陰で,ワルツのフィナーレは迫力満点でした
2曲目のプロコフィエフ「ピアノ協奏曲第2番」のピアノ・ソロを担当するのは午前にラフマニノフの前奏曲を弾いたエル・バシャです.第1楽章冒頭は神秘的なメロディーが最初はオーケストラで,次いでピアノで奏でられます 徐々にプロコフィエフの世界に引きづりこまれていきます.この曲を生で聴くのは今回が初めてですが,聴きごたえのある曲でした
予定を10分オーバーして2時40分に演奏が終わりました.国際フォーラムに戻ると,地上広場の「キオスクステージ」でバラライカのテルム・カルテットが演奏していました.「デンデラ―,デレデレ,デンデラ―」と酔っぱらいのような歌声に合わせて観客が手拍子をしていました.こういうのは楽しいですね
その足でクラシック専門ラジオ局「OTTAVA」のブースに行くと,ちょうど3時からヴァイオリニスト川久保賜紀がゲストで出演していました この日演奏するチャイコフスキーの「ヴァイオリン協奏曲」にまつわる話などをパーソナリティーが尋ねていました.「演奏前に食事はするんですか?」という問いに「演奏前は食べませんが,演奏後にはたくさん食べますよ」と答えていました.彼女は普段着で,髪の毛も普段通りでした
中央が川久保賜紀
再びCホールに移動して3時半から公演ナンバー344のラフマニノフ「ピアノ協奏曲第3番」を聴きました自席は3階1-1です.ピアノはユーリ・ファヴォリン,小泉和裕指揮東京都交響楽団です.ちなみにコンサートマスターは矢部達哉です.3階席の一番前の席なので,舞台中央に座っている首席第2ヴァイオリン奏者・遠藤香奈子さん(通称エンカナ)の姿が良く見えます.1階席の中央席からは,ピアノの蓋が邪魔をして彼女の姿は見えないでしょう.残念でした
ソリストのファヴォリンは3日に現代音楽を演奏したピアニストです.第3協奏曲は4日,チェチュエフで聴いたので,本来なら聴き比べといったところです.どちらも技巧的には文句のつけようのない演奏家ですが,チェチュエフの演奏の時にも書いたように,いったい演奏家の個性とは何か,独自性とは何か,という問題に突き当たります 2人の演奏を比較して優劣をつけることなど素人にはできません.世界中の音楽コンクールでは,差のつけようのない実力者揃いの出場者の中から優勝に相応しいアーティストを選別しているわけですね.とても信じられません
終演はちょうど4時15分でした.次の公演が4時半からAホールであるので,拍手もそこそこに3階からエレベーターで降りて隣の棟のAホールに駈け付けました ペラ1枚のプログラムとともに歌の日本語訳(1枚)が用意されていたのはでした.
Aホールでは公演ナンバー314のコンサートを聴きました.プログラムは①ラフマニノフ「晩祷より第1番,第6番,第12番」,②同「詩曲:鐘」です.①は合唱のみのアカペラで,指揮は50年間埋もれていたラフマニノフの「晩祷」を演奏し,功績を遺したヴラディスラフ・チェルヌチェンコです 合唱はカペラ・サンクトぺテルベルクで男女各26~27人位の編成です.自席は1階18列14番で,中央左サイドの通路側です.会場はかなり空席が目立ちます.ロシアの宗教曲かあ,といった感じでしょうか
最初の「晩祷」はキリストを称える曲で,ほんの15分程度の短い曲ですが,合唱は力強く歌い上げていました
2曲目のラフマニノフ「詩曲:鐘」は4つの楽章から成りますが,第1楽章をテノールが,第2楽章をソプラノが,第3楽章を合唱が,第4楽章をバリトンが,それぞれ歌います 全体的に激しい曲で,とくに合唱だけで歌われる第3楽章は,これ以上声が出ないというほど大きな声を張り上げて歌い,指揮者のドミトリー・リスはボクシングのような振りでウラル・フィルに対峙し,今にも相手に喧嘩を売るようなスタイルで指揮をしていました 彼が指揮棒を持たないのは,もしも持っていて,それがすっぽ抜けて誰かに当たると大変なことになるからではないか,と勘繰ります 第4楽章あたりでリスの背中を見ると,汗でシャツが濡れ,その部分が黒くなっています.相当体力を使うのでしょうリスはいつでも全力投球です. なお,ソリストはソプラノ=ヤーナ・イヴァ二ロヴァ,テノール=スタニスラフ・レオンティエフ,バリトン=パヴェル・バランスキーです.熱演のためか時間を15分オーバーしました
次の公演まで時間があるので,再び展示ホールに行ってみました.すると,ホール内の一角に前日までの演奏の写真が掲示されていました.2枚写メしてきました.これって本当はいけないの?内緒ね
庄司紗矢香
今回の音楽祭の聴き収めはAホールで6時45分から開催の公演ナンバー315のコンサートです プログラムは①グリンカ「ルスランとリュドミーラ」序曲,②チャイコフスキー「ヴァイオリン協奏曲ニ長調」で,ジャン・ジャック・カントロフ指揮シンフォニア・ヴァルソヴィア,ヴァイオリンは川久保賜紀です
最初の「ルスランとリュドミーラ序曲」は,いかに速く演奏するかが問われる代名詞みたいな曲です カントロフとオーケストラは,「ちんたら演奏したら席を蹴って帰るぞ」という観客の厳しい視線を浴びながら最速のテンポで突っ走りました
2曲目は,待望のチャイコフスキー「ヴァイオリン協奏曲ニ長調」です.ソリストの川久保賜紀が深紅のタンクトップで登場します.背中丸出しは”大胆素敵”です 髪の毛をお団子にして上で丸めているせいか,先ほどの普段着の彼女とは雰囲気が違って見えます
第1楽章「アレグロ・モデラート」が軽快なテンポで開始されます.途中のカデンツァの時は,会場が緊張感で満たされ,5000人の聴衆の目と耳が彼女に集中しました.それは見事な演奏でした カントロフはオーケストラだけの演奏になると,テンポ・アップしてオケをせき立てていました 第2楽章「カンツォネッタ.アンダンテ」では,しみじみとヴァイオリンが”歌って”いました.そして,第3楽章「フィナーレ」に突入するとソリストの独壇場です.舞台の左右壁面に設置された大型スクリーンに写し出された彼女の顔を観ると,時に指揮者とアイ・コンタクトを取ってニッコリ笑い,時に悲しいメロディーに眉をひそめ,表情をくるくる変えながら演奏していきます
フィナーレの最後の音が終わるや否や会場一杯の拍手とブラボーの嵐が待っていました 何度も舞台に呼び戻され,観客の声援に応えていました 賜紀さんは一仕事終わったので有楽町の街に繰り出してたくさん食べたのかもしれませんね
これで今年のラ・フォル・ジュルネ”熱狂の日音楽祭”も終わりです 3日間はあっという間でした.16公演聴いた中で印象に残っている公演を挙げると,順不同で次のとおりです.
プロコフィエフ「ピアノ協奏曲第3番ハ長調」(ピアノ=クレール・デゼール)
ショスタコーヴィチ「ヴァイオリン協奏曲第1番」(ヴァイオリン=庄司紗矢香)
チャイコフスキー「ヴァイオリン協奏曲ニ長調」(ヴァイオリン=川久保賜紀)
ラフマニノフ「前奏曲」(ピアノ=ベレゾフスキー)
グリンカ「大六重奏曲変ホ長調」(ピアノ=ケフェレック,コントラバス=ポワンシュヴァル,弦楽=プラジャーク弦楽四重奏団)
連休最終日の今日は新宿ピカデリーに,映画METオペラ・ライブビューイング,マスネの歌劇「マノン」を観に行きます
僕にとってはとても贅沢な夜です。