愛猫・西子と飼い主・たっちーの日常

亡き西子とキジロウ、ひとりっ子を満喫していたわおんのもとに登場した白猫ちくわ、その飼い主・たっちーの日常…です。

ミィちゃんとエサやりさん(第6話・最終回)

2010年05月06日 | ネコの寓話
(第1話から読んでください)
彼女はいつものように、猫たちに食事を与え、自宅に戻ると急に胃がきりきりと痛み始めた。近くに住む娘に連絡をして来てもらい、病院に連れて行ってもらった。
そして、彼女は自分の命が残り少ないことを知った。
1カ月ほど入院していたが、外泊の許可が下りた。猫たち、とりわけミイのことが気になっていた。
案の定、老猫のミイは新参者の若手に追われて、駐輪場からやや離れた駐車場の隅で丸くなっていた。
「ただいま。寂しい思いをさせてごめんね」
 彼女はそう言いながら、痩せた腕で年をとって痩せたミイをやさしく抱き上げた。そして、ゆっくり腰を下ろし、何時間もミイを抱き続けた。その晩、彼女はミイを部屋に入れ一緒に寝た。それが、彼女とミイの最後の分かれになった。
 彼女は翌日再入院し1週間後にこの世を去った。
 ミイは、そんなことを知らずに彼女を待ち続けた。来る日も来る日も…待ち続けた。彼女以外にミイの世話をする人はたくさんいたので、食事にも寝床にも困ることはなかった。でも、ミイは彼女に会いたかった。彼女に甘えたかった。彼女に抱っこしてもらって、やさしく背中をなでてほしかった。
 ミイは、すでに自分の死期が近づいていることを感じていた。だから、余計に彼女に会いたかった。もう一度だけでも、会って抱っこしてほしかった。
 しとしと冷たい雨の降る夜だった。彼女の変わりになっているエサやりさんが用意してくれた寝床で寝ていたミイは夢を見た。彼女の夢だった。彼女は、いつもの優しい笑顔で寝ているミイをのぞき込むようにしゃがみ込んでいた。
 めったに鳴き声を上げないミイだが、このときは丸まったまま顔だけ彼女に向けて「にゃー」と一声鳴いた。それは「遅かったじゃない」と苦情を言っているようだった。
 「寂しい思いをさせてごめんね」
 夢の中の彼女は、そういうとそっとミイを抱き上げた。
 ミイはうれしかった。とてもうれしかった。そして、安心したように、夢の中でさらに眠りについた。
 翌朝、冷たくなっているミイがいた。その顔は、どこか幸せそうで、ほっとしたようだった。
コメント (6)
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