愛猫・西子と飼い主・たっちーの日常

亡き西子とキジロウ、ひとりっ子を満喫していたわおんのもとに登場した白猫ちくわ、その飼い主・たっちーの日常…です。

ミィちゃんとエサやりさん(第5話)

2010年05月05日 | ネコの寓話
(第1話から読んでください)
 ミイは、獣医師の「生命力が強い」という太鼓判のとおり、きょうだいたちよりも長生きした。もちろん、雨や雪の厳しい日には、彼女はそっとミイを部屋の中で保護していたことが長寿の要因のひとつだった。
10年を超えたころ、一時期いつものように彼女が姿を見せると真っ先に表れたが、まったくエサを食べなくなったことがあった。
「いよいよ弱ってきたかな」
彼女は心配したが、毎日のように夜中に刺身をくれる人がいて、贅沢になっただけだった。
「まったく、舌が肥えちゃって困ったもんだ」
 彼女はあきれつつもホッとして、そう言った。
体調が悪そうだとみれば、そう見た人が病院に連れて行くようになった。このため、連日、違う人がミイを病院に連れて行くこともあった。
 ひげ面にやや白髪の交じり始めた獣医師はその都度、「また来たか。連れてくるときは、例のエサやりさんに聞いてから連れてきな」と笑いながら言った。
近所に見守られて、ミイは無事に16年目を迎えた。もはや、この駐輪場でミイを超えて長生きしている猫は今も昔もいなかった。そして、近所では知らない人のいないほど有名な猫になっていた。
しかし、年月の重みはすべての人と猫に均等にかかっていた。
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ミィちゃんとエサやりさん(第4話)

2010年05月04日 | ネコの寓話
(第1話から読んでください)
エサやりさんとそれをサポートする三毛猫のミイ。近所では、有名なコンビになった。
もちろん、捨てられている猫の世話をしている彼女を快く思っていない人たちもいた。
あるときは、いくつか置いた猫のエサの皿が、すべてひっくり返されていることがあった。
もっとも悪質だったのは、エサに防虫剤を混入されたときだった。猫たちは遺物の混入を察して、口を付けなかったからよかったものの、食べたら死んだ猫もでていただろう。
ある日、近所からの通報を受けたからと、わざわざ役所の人が来たこともあった。
「あなたの猫ですか」
「世話をしているけど、私の猫というわけじゃないよ。みんなで面倒を見ているんだ」
「どなたでも構いませんが、家の中で飼っていただけないですか」
「うちは公営住宅だから飼えないよ」
「エサをあげていることで、近所から苦情が来ているんですが」
「だれもエサをあげなければ、このコたちは収集されたゴミを漁るようになるよ。それでもいいのかい?」
「……」
「捨てる人がいるから世話をしているんだよ。猫じゃなくて、簡単に命を捨てる人間をどうにかしな! それでも文句があるっていうんなら…」
彼女は、そういうとミイを抱き上げて、保健所の職員の顔の前につきだしていった。
「あんたたちが連れて行ったら殺すんだろ。連れて行って、殺せばいいじゃないか!」
 彼女のいわば「大芝居」だった。助演のミイも職員をじっと見つめた。
 職員は申し訳なさそうに、引き上げその後、二度と来ることはなかった。
 職員が引き上げたのを確認すると彼女はミイの顔を自分のほうに向けて抱き直し、ホッとしたような表情で言った。
「ご苦労さま、いい芝居だったよ」
 ミイはちょっぴり照れたようにぺろっ舌を出して鼻を舐めた。
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ミィちゃんとエサやりさん(第3話)

2010年05月03日 | ネコの寓話
(第1話から読んでください)
彼女は三毛猫を家に入れて、世話を始めた。それまで「世話をしているだけで、飼っているわけではないから」と、これまでは世話をしている猫に名前を付けようとしなかった。しかし、この三毛猫の世話をしているうちに、自然と「ミイ」と呼ぶようになった。
ミイは、食欲旺盛。猫風邪をこじらせていたのがウソのように体調を取り戻し、部屋の中をぴょんぴょんと走り回るようになった。
「もう大丈夫だね」
彼女は安心したように、ミイをきょうだいのいる駐輪場に戻した。「部屋の前に来て鳴かれたりすると困るなぁ」と心配したが、ミイは、すべての現実を受け入れたように、きょうだいたちと一緒に暮らし始めた。彼女はそんなミイにホッとしつつ、ちょっぴり拍子抜けしたような気持ちだった。
ミイは、元気にすくすくと成長していった。人懐っこく、すぐに地域の人気者になった。それでもミイにとっては、やはり彼女が一番安心できる存在だった。駐輪場に彼女が姿を見せただけで、長くないシッポをぴんと立てて、どこからともなく姿を現した。
それだけではなく、子猫が捨てられると、母猫のようにかいがいしく世話をした。
「ミイがきてから、猫の世話が楽になったね」
 近所の人たちから、彼女はこんなからかわれ方をした。
彼女は笑ったが、胸を張って座ったミイの表情はちょっと誇らしげだった。
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ミィちゃんとエサやりさん(第2話)

2010年05月02日 | ネコの寓話
(第1話から読んでください)
予想に反し、三毛猫は急速に回復していった。獣医師も「このコ、生命力が強いよ」と太鼓判を押した。同時に「できれば念のため2~3日は家に入れて世話をしてあげて下さい」と付け加えた。彼女はちょっと躊躇したが、すぐに了解した。
彼女はひとり暮らし。歩いて15分ほどの場所に娘夫婦が住んでいる。以前は息子も近くに住んでいたが、転勤で郊外に移り住んだ。郊外といっても彼女の住む場所から2時間ほど。孫を連れてたまに遊びに来てくれるのはありがたいが、猫アレルギーのため猫と対面させることができない。それどころか換気と掃除に手を抜くと、猫を泊めてから数日間、日が空いていても反応してしまう。彼女のちょっとした躊躇はそこにあった。
この公営住宅には、当初夫婦で移り住んだ。彼女の夫はとび職だった。いわゆる「一人親方」で50歳を過ぎても、その腕を見込まれ工事現場を飛び回るように働いていた。ある日、足場から落ちて大けがを負った。身体が思うように動かなくなり、働けなくなった。
昔気質の職人だけに「宵越しの金は持たない」などと気取っていたため、蓄えも少なかった。それまでは、腕の良さを見込まれて仕事が耐えなかったため、何とかやりくりができていたが、家計はまさに自転車操業だっただけに、働けなくなるとすぐに行き詰まった。結局、家賃も安く息子と娘の自宅にも近い公営住宅に移り住んだ。
夫は、犬や猫が好きな人だった。
「年をとったら、田舎に移り住んで犬と猫を飼うぞ」
そんなことを言っていただけに、どちらも飼うことのできない公営住宅に引っ越しが決まったときは、とても落胆していた。
「ケガさえしなければなぁ…」
事あるごとにそんなことを口にするようになった。若々しく、気風のいい人だったが、目に見えて弱っていき、引っ越してからちょうど1年後に亡くなった。乱暴なようでいて、彼女の誕生日を忘れたことのない夫を彼女は愛していた。それだけに、彼女の落胆は大きく息子と娘は「後追い自殺でもするんじゃないか」と心配したほどだった。
隣接する駐輪場に猫が捨てられるようになったのは、ちょうどそのころからだった。
「お父さんなら、きっと放ってはおかなかった」
 猫たちを見て、そう思った。そんな思いが彼女を動かしていた。
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ミィちゃんとエサやりさん(第1話)

2010年05月01日 | ネコの寓話
「まただ。まったく、ゴミでも捨てるように捨てるんだから…」
呆れたような言葉とは裏腹に、彼女は段ボール箱に入った目の開ききっていない3匹の子猫をやさしく交互に抱き上げた。
茶トラ、白黒、そして三毛の3匹の子猫。
 そのうち三毛は猫風邪をこじらせたようで、鼻水を垂らしている。
「仕方ないなぁ…」
 彼女は最後に三毛猫を抱きかかえると、そのまま動物病院へ向かった。
 彼女が住んでいるのは公営住宅。数年前から、建物に隣接した駐輪場に、たびたび猫が捨てられるようになった。彼女は別に猫が好きなわけではなかったが、あまりにも簡単に捨てられる命を見過ごすことができずに、世話を続けていた。
 そんな彼女は今では地域でも有名な「エサやりさん」、もちろん動物病院でも「常連」だった。受付窓口で「また、いたよ」と呆れたような口調で告げると、奥から髪を短く刈り上げたひげ面の獣医師が表れた。
「今度は1匹だけ?」
「3匹いるんだけど、このコの具合が悪そうだったからとりあえず、先に連れて来ちゃった」
「ホントだ。猫風邪がひどそうだね。2~3日入院させて、様子を見た方がいいかもね。とりあえず診察しましょう」
彼女は、獣医師の言葉を聞いたとき、内心「このコはダメかもしれない」と思った。この三毛猫と同じような状態で、命を落としている猫をこれまでに何匹も見ている。そんな猫たちと同じような結果になることを覚悟していた。
コメント (2)
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