白井義男氏と初めて話した日

　今から30年前の今日89年1月23日に後楽園ホールで行われた
日本Jフライ級タイトルマッチを観戦したのだが、興行終了後に当
日の解説をしていた日本人初の世界王者・白井義男氏と話をする事
ができた。

　我々の仕事は月曜休みなのだが東京では基本的に第2と第3月曜
日に後楽園ホールでボクシングが行われており、特に第3月曜には
協栄プロモーションとTBSが組んだガッツファイティングで白井
義男と具志堅用高が解説をしていた。

　この日は大橋秀行と並ぶJフライ級のホープで日本Jフライ級王
者・喜友名朝博が3度目の防衛戦を行なうわけだが、2ヶ月前に1
位の木村健一に快勝した一方で挑戦者の早山進は2位ながら戦績は
8勝11敗と負け越しているので見どころは王者が何ラウンドで倒す
かだった。

　ところが1Rから挑戦者が攻勢に出て2Rにはダウンを奪ったば
かりか王者は目を切って出血するピンチに陥ると、全く抵抗できず
ストップ負けに終わる。

　勝った挑戦者コーナーと応援団以外の場内は意外な結末であっけ
に取られていたのだが、そんな中で放送席のモニターで喜友名の負
けを確認するべく見に行くと放送席も‘信じられないものを見た’
という雰囲気で絞めの実況をしていた。

　終わった後に偶然エレベーターで白井氏と同席？する事になって
喜友名の敗因を聞くと‘強敵に勝った直後に負け越している相手と
やるとモチベーションに欠けるのはありがちだが、早山は8勝中6
KOとパンチはあるのだから気をつけなければいけなかった’という
ニュアンスで説明してくれた。

　そして‘今は世界王者がいないし世界挑戦の連敗中だが、どんな
国でも浮き沈みはあるわけで有望なホープがいるから2・3年後に
は5人は世界王者が誕生しますよ'と別れ際に言っていたので俄か
には信じがたかったが実際に3年後の92年には辰吉丈一郎、井岡
弘樹、鬼塚勝也、平仲明信、勇利アルバチャコフと5人の世界王者
が誕生したのだから氏の眼力の凄さに驚いたものだった。

　それから5年後の94年に上京して久しぶりに観戦した時にセミ
ファイナルとメインの休憩時間に氏を見つけて記念撮影を頼むと、
直後に挨拶に来た関係者をさえぎり私の方を優先してくれただけで
なくカメラを持たせて撮影をさせたわけで通常なら業界の関係者と
の話を優先させるはずなのに素人の私を優先してくれるなど感激し
たものだった。

　以前ボクシングマガジンに連載されていたカーン博士の肖像とい
う読み物の中で‘リングサイドにいる客と外野席にいる客も共に君
を応援してくれているが、リングサイドにいる客は君が王者だから
応援するのに対し外野席の客は君が引退しても応援してくれるのだ
から彼らを大事にしなさいと博士が白井に言った‘というくだりが
あったのだが業界関係者よりも私の方を優先してくれる姿勢にカー
ン博士の教えを守っているのだなと感心した次第。

　氏の解説は例え負けてもいい試合をした選手は褒める反面、怪し
げな判定で勝った選手やボクシングを食い物にする輩は酷評してい
たので氏が健在だったら派手な話題だけで怪しい判定ばかりで勝っ
ていた某一家などをどう酷評していただろうかと思えてならない。