「無題」
(八)―⑤
私は、デンワを離さず、かつて一緒に働いていた店長に繋いだ。
「おはようございます、竹内さん」
「おはよう、店長」
「どうかしました?」
「悪いね、忙しい時に。あのー、百均市だけど、店長会議で止める
ことに決まったの?」
「えっ!あれは確かに事業仕分けの対象にはなりましたけど、僕ら
反対しましたからね、今まで続けてきたし竹内さんも頑張ってるか
ら。それに、いまトマトとか売れて客増えてますからね」
「うん」
「それで、ちょっと言い合いになって、そこで社長が預かると言い
出して、まだ結論は出てないはずですけど」
「いや、いま社長にデンワで聞いたら店長会議で中止が決まったっ
て言ってたよ」
「えっ?何で・・・。また社長の独裁ですよ」
「店長、よくわかった。ありがとう」
もちろんスーパーの店長は「名ばかり店長」では務まるわけがない
が、しかし、我々の店長会議は「名ばかり店長会議」と呼ばれてい
て、社長の意に沿わなければ社長が預かって決裁する。我々の会
社では大事な事案は齟齬の中に裁定される。かつて、それに憤懣
を堪えられなくなった老いた店長が、「ここは北朝鮮か!」と捨て台
詞を残して辞めて行った。それから、店長会議のことを「人民会議」
とも呼ばれるようになった。異論は排される、ただそれだけのことだ。
私は、自分の机に座ってもう迷うことなく辞表を書いた。手元まで
差し込む朝日が何故か夕日のように思えた。
(つづく)