ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

ストッパード作「ユートピアの岸へ」

2009-10-02 16:43:44 | 芝居
9月22日シアターコクーンで、トム・ストッパード作「コースト・オブ・ユートピア-ユートピアの岸へ」を観た(蜷川幸雄演出)。

2007年トニー賞最優秀作品賞受賞の三部作で、休憩も入れると10時間かかるという大歴史ロマンの日本初演である。その通し公演。

ステージには長いテーブルと椅子が出ていて、役者たちが普段着でくつろいで談笑している。ペットボトルがある。楽屋風景のようだ。また奇をてらって・・とがっかりしたが、客席の照明が落ちると同時にそれらは撤去され、彼らはステージ上で衣裳をつける。

客席が細長いステージを囲んでいるので、当然役者のセリフは半分は後ろを向いて話される。従って、大声でどなったり叫んだりが多いにもかかわらず、(早口ということもあって)聞き取れないセリフが多い。

ロシアの歴史的文化的位置づけが非常に興味深い。農奴制によって支えられた貴族社会の出である知識人たちは、西欧先進諸国の哲学、思想に触れて社会への目を開かれ、何とかして祖国ロシアの現状を変えたいと願うが・・・。

麻美れいは3役をこなす。セリフなしの役を入れれば4役。その中で一番似合っているのは、勿論、奔放な愛に生きる女マリアだ。
銀粉蝶はちょい役でもったいない。
革命家バクーニンが実は重症のシスコンだったなど、面白い逸話もあり、飽きさせない。

衣裳(小峰リリー)も素晴らしい。
時々スローモーションのシーンが効果的に挿入される。「活人画」というのはあんな感じだろうか、と思った。

ロシア語、ドイツ語、フランス語、英語、イタリア語が入り混じるという何とも国際色豊かな会話や議論を、字幕のお陰で大いに楽しむことができた。

フランス革命の描写は絵のように美しい(美術:中越司)。

30年余にわたる三部作のすべてが終わった時、まさに大河小説を読んだような余韻を味わった。ストッパードに幕末の日本を舞台にした芝居を書かせたら面白いのではないだろうか。イギリス人の彼がロシア人たちの物語をかくも熱く語れるのだから、まんざらあり得ないことではないだろう。ただ70代という彼の年齢を考えると、ちょっと難しいか。

10時間ぶっ通しの芝居というのは初めて。エコノミークラス症候群にならぬよう、時々足の指を動かしたり、休憩中はできるだけ歩いたりしたのだった・・・。

ところで当時、女性はどのような教育を受けていたのだろう。男とは全く違う教育だったのか。登場する女は誰も社会のことに関心がない。農奴制に疑問を抱く女も一人も出てこない。本当にそうだったのだろうか。男と全く同じ教育を受けた女としては、男女のあまりの知的格差に衝撃を受けた。男たちはこの芝居を観ても、そういう違和感や疑問を抱かないのかも知れない。もしかすると女たちも?

それにしても「軽薄短小」の時代はついに終わったのだろうか?例の「カラマーゾフ」ブームと言い、来る11月の「ヘンリー六世」三部作一挙上演と言い、どうもそんな気配だ。いやあ、めでたい。同志諸君!ついに我々の時代がやって来た!?

コメント
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