晴耕雨読、山

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久しぶりにピアノ曲を『羊と鋼の森』で

2016年08月03日 | 読書

全国の書店員が選ぶ2016年本屋大賞の受賞作であるこの本は若きピアノ調律師の物語。と聞いてもタイトルの意味が連想できなかったが、ピアノの音をつくりだす弦とハンマーが鋼と羊の毛から出来ていると分かり、なんとなく理解。だが読むほどに、考えられた作品名だと納得した。ピアノが弾く音の世界に入り込んだ青年が、深い森をさまよいながら成長するまでの過程が丹念に描かれる。その微妙な音色、主人公初め登場人物の心理状態なども同様、作者は調律された言葉で紡ぐ。先輩の調律師が目指す音として、「明るく静かに澄んで懐かしい文体、少しは甘えているようでありながら、きびしく深いものを湛えている文体、夢のように美しいが現実のようにたしかな文体」と原民喜の言葉を紹介。それは主人公だけでなく、作者もこの作品でめざしたのではないだろうか。ピアノが家から消え、さらに縁遠くなったその音色、ピアノ曲集のCDで久しぶりに聴いてみたくなった。