最初の数行読み出して見覚えある地名<蓼科高原><女神湖><蓼科山>が出てきた。1か月前、去年に続いて上信道佐久ICから高ボッチに向かった時の往復を思い出した。主人公の少女が車の窓から数年ぶりに眺める八ヶ岳山麓の景色。自由奔放に生きる母から離れ、伯父が建てたログハウスに同居するためにやって来たのだ。そこで出会うのは以前可愛がっていたのと同じ種類の犬。だが今度は牡、かつ伯父が言うとおり個性的で懐かない。だが日を追うごとに距離が縮まり、お互いの気持ちが分かりあうような間柄に。その間合いが何とも良い。そして山岳写真家でもある伯父から山登りの手ほどきを受ける。段差を登るときは高低差を小さく、岩や木の根を利用。登りできついのは心肺、下りは筋肉を酷使するので登りでは筋肉を温存するなど。山岳小説も書く作者ならではの会話や描写が随所に織り込まれる。そんな親しくなった犬と自然に囲まれた生活に父親と揉め事を抱える隣家の別荘の息子が登場。似たような家族環境の二人の共通のやすらぎは犬の存在と緑あふれる森、周囲の山なみ。やがて二人はそれぞれ山をめざす。ラストシーンで森の中に響く雨音は印象的。いつの日かそうした場面に出くわしたら、この物語を思い出してしまいそう。犬と山好きな人におすすめの一冊である。