さうぽんの拳闘見物日記

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拳闘見聞の日々。

意地に殉じた?挑戦者を、冷静に退ける ユーリ阿久井政悟、桑原拓に今度は判定勝ち

2024-05-09 12:30:26 | 関東ボクシング



そういうことで東京ドーム決戦、4大世界戦の残り二試合は、いずれも日本人対決でした。
まずは最初の試合から感想。


WBAフライ級タイトルマッチ、岡山の星ユーリ阿久井政悟が、かつて破った同世代のスピードスター桑原拓と再戦。
パワーアップを自らに課し、さらにスピードも生かすスケールアップの途上にあると喧伝された桑原は、確かにある面においては、前回よりも成長した姿を見せたように思いました。

初回から速いコンビネーションが遠目にも映えて見える。左フックが飛び、ワンツーふたつ、ボディ攻撃も出る。
従来どおり速く、威力も前回よりあるような。

しかし阿久井の前進を食い止める効果が見えない。両ガードを掲げた阿久井がプレスかけて打っていく。
こちらは追いながらバランス乱れず、打ちたいパンチを無理なく打てている。しかもスピード自体、桑原と差が無い。

2回にはもう、右で桑原がのけぞっている。肩越しに右クロスが飛ぶ。
4回、阿久井の左ボディが決まる。ラスト、打ち負けている桑原、右クロス決める。


中盤以降も、桑原の速いパンチが変わらず出るが、ほとんどが阿久井のブロックに撥ねられている。
阿久井はインサイドから、的確な強打のヒットを重ねて行く。


6回、桑原は左右のボディフック連打から、上に返してヒットを取る。
しかしアウトサイドからのパンチは、桑原の闘志を伝えるものではあるが、大半が有効打ではない。
7回、アッパーを外された桑原が、阿久井の右ショートから追撃される。
8回、阿久井の右が飛ぶ。桑原、頼みの足が止まり加減になってくる。
9回、桑原身体を大きく回して右、左。しかし疲れているときに身体を大きく動かして打つ、要は無理をしている。

10回も阿久井の右で桑原が後退。11回、桑原連打で意地を見せるが、それ自体が...後述しますが。
最終回、展開変わらず。阿久井のヒットで桑原、クリンチに出ざるを得ない。

判定は3-0で桑原。10対2か9対3というところだったようです。


桑原拓は雪辱を期す闘志に満ちて、それを果敢な連打攻撃で表現していたように思います。
しかし、同時に最初からトップスピードを出し、打つパンチの数が増えているにも関わらず、阿久井を食い止められない。
結局、喧伝されたパワーアップとは、阿久井を打ち込んでさらに攻め込むには足りず、打っては動いて外す、言えば従来のスタイルにならざるを得ない程度のものでしかありませんでした。

ならば距離を取り、リズムで動いてヒット・アンド・ランに徹し、パンチの数を無闇に出すので無く、パワーアップしたパンチや身体の力は要所で生かす、という闘い方をすべきなのではないか。
試合を見ながら、勝つためにどう闘うべきか、というより、自分の思い描いたパワーアップ後のボクシングをやりたい、見せたい、というエゴが勝っているなあ、という印象がぬぐえませんでした。
打っていっても防がれているし、その前後を捉えられ、打たれている展開で、その現実を直視せずに意地を張っている、というのか。
結局その展開は最後まで変わらず、正直に頑張って、やったことのぶんだけ疲れて、終盤さらに打ち込まれ、連打で意地は見せたものの、クリアに負けました。

終盤に来て、身体ごと振り回すようなパンチを打ち、半ば捨て身で連打攻撃を仕掛ける姿を見て、それは心情的には称えたい面もあるにせよ...世界タイトルを獲るために戦うコンテンダーとしては、不足している、と共に、間違っている部分がある、と思った次第です。



阿久井政悟は、王者としての風格さらに増し、という風でした。
攻防共に安定していたし、地方ジムにあって世界タイトル奪取ともなれば、色々とお祝いの場も数多かっただろうし、その辺だけがちょっと心配、という声も聞きましたが、蓋を開けたら隙も緩みもほぼ見えない。
要らん心配、邪推やったなあ、というところでした。
ただ、対戦相手の、持てる力をより有効に生かす組み立てを考えない闘い方により、攻防それ自体はともかく、試合展開には難しいことは特になかった、という意味では、初防衛戦としては容易い部類の試合だった、とも言えましょう。
次は上位との対戦になるでしょうし、王者としての闘いはこれからが本番ですね。


しかし岡山から初の世界王者だけでも悲願達成、なのに、初防衛戦が東京ドームとは、本当に夢のような話だったことでしょうね。
その舞台でも、いつもどおりに冷静に、淡々と闘っていた阿久井、大したものだなあと感心しました。
この選手、ひょっとしたらこちらが思っていた以上に、これからさらに大を成す王者になるのかもしれませんね。
まあ、そうなってくれたらいいなあ、という願望がだいぶ入ってますけども。
今後は相手次第で闘い方の幅、というあたりが色々、問われるのかもしれませんが。


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4 コメント

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Unknown (海の猫)
2024-05-09 14:39:14
この日、最も「王者」に相応しい佇まいを見せたのは阿久井でしたね。見事な戦いぶりで、阿久井と桑原との差は縮まるどころかさらに開いたように見えました。

身体の動き自体は桑原の方が速いのかもしれませんが、阿久井の方が何と言いますか「ボクシングが速い」のですよね。ここ、というところで阿久井の方が先に動いて手を出している。パンチは威力のみならず、精度、タイミングでも上。パワーで勝る分の余裕でもって、という面もあるでしょうが、この日リング上で見せたものとしては、全てにおいて阿久井が上でした。
桑原は好きですし、成長した部分も見られましたが、やはり厳しい見方になってしまいます。前回同様ゴールの見えない戦いぶりで、それを続けた先に「勝利」がないのはもう見えているのに、本人も陣営もどこに向かっているのか分からない。今一度、何のためのスピードなのか、何のためのパワーアップなのか、考える必要があるかと思います。

そもそもこのカードは理由なき再戦で、その場合敗者は勝者以上のものをテーブルにのせなければいけないと思うのですが、それが「東京ドーム」だとしたら、大手ジムで良かったですねという話にしかならない。ただ大橋会長が憎めない?のは、見立てが甘く、自分たちで用意した試合で惨敗するところですね。桑原が帝拳なら、加納との王座決定戦になってるかと。
Unknown (R45ファン)
2024-05-09 14:52:01
確かに見た目のスピードとパワーはあったかもしれない。
ただ阿久井くんはより厄介でとらえにくい、さらに変則パンチもあり気を刹那も抜けないあのダラキアンを攻略した男だよと。桑原くんはその阿久井くんに勝つためにあれで十分と思っていたのかと。
ヒットアンドランしようが両者の差はどうにもならないように見えました。それは桑原くんが東洋王座を防衛し、さらにパワーアップした自信よりはるかに大きな自信。ダラキアン攻略した自信だろうなと。差はさらに広がったなと。
この日も無駄なく、乱れなく、距離タイミングをきちんとはかり、そして適切なパンチで削り、追い詰める。 
なんかゴロフキン様のようにも見えました。
メンタル的にもこの日ドームで戦った選手の中で阿久井くんは一番冷静だったように見えます。
人としての器なのか、この方歴代フライ級の日本人世界王者でもかなり上位だと思います。ケンシロウさんや京口さんでも苦戦するでしょう。
Unknown (Neo)
2024-05-09 15:08:24
ライブで見た時は,阿久井のクリアな勝利で,途中いい機会があれば止められるかもとまで私の目には見えたのですが,一夜明け会見で意外と阿久井の顔が腫れていたので,やはり激闘だったのだなと思いました.
阿久井は機会・技術・距離といったものは日本人世界王者でも上位に来るかも知れませんが,意外と打たれ弱い印象あり,そこをどうカバーするか.これまで通りハタキやガードを多用して相手にプレスをかけ続けながらカウンターを狙いつつ,左リードで崩す精度を高めるのか,距離で外す機会を意識的に増やしてプレスに強弱のリズムをつけ,相手を「引き出す」ことにより決定機で精度の高い一撃を演出するのか.この辺りレベルの高い悩みですね.
桑原はスピード・パワー・身体能力,個々ではむしろ阿久井を上回っていたと思いますが,中間距離での技術比べではハッキリ劣り,呼吸を読まれては先に入られ機会をしっかり捉えられていましたね.今回も自らが先に間合いに入ってから放つリードは阿久井にとっても容易なものではなかったと思います.ただ,サイドに動いた時に動きっ放しというか,サイドから先を取る動きは鈍かったように思います.やはり桑原は距離に関する技術が今後の課題かと思いました.
コメントありがとうございます。 (さうぽん)
2024-05-09 23:28:44
>海の猫さん

据わりの良さでは確かにナンバーワンでしたね。メインの人が少しおかしかったせいもあり。
「ボクシングが速い」ですか。確かに、いつ何をやるかという部分で、ですね。桑原、速いことは速いが、それで相手を脅かせていない。ならばどうするか、という部分で、何も変えなかった。本当にゴールが見えない、言い得て妙ですね。
力関係としては、メルドリック・テイラーがテリー・ノリスに対峙したときの雰囲気に近かったかもしれません。チャベスvsカマチョでもあったでしょうかね。
大橋会長は前記事のコメントでもありましたが、勝算とは別の何か、それはときに冷酷な見切りも含めたものなのか、単なる本当の親心のつもりなのか、大きな勝負をお構いなしに持ってくることがありますね。桑原もこれに負けたら得心いくやろう、という冷酷な話かというと、そうでもなさそうですが。
帝拳だったら...うーん、うーん、余りにも深く哲学的な話ですね、それは(ほんまかおい)。そもそも世界戦に出さないんじゃないですか、この程度では...と、昔なら言えたんですけどね。うーん。


>R45ファンさん

勝算という面では、上記コメントのとおり、組んだ時点でどうなのかという感じでしたね。仰る通り、足使って何かに徹したところで。
しかし実際闘ってみて、意地は通したかもしれませんが、勝つための最善を求めた結果があの試合かというと、首を捻るところです。やっぱり前回対戦からの過程を見て、再戦させるべき内実があったかどうか、なんですよね。
東京ドーム、日本人初の世界戦だったわけで、それでも落ち着き払っていた阿久井は、思った以上の「タマ」なのかもしれませんね。仰る通り、歴代、という括りでも良いところまで行く...のだとしたら、本当にこれから色々楽しみです。京口、矢吹(これも再戦になります)そして拳四朗...色々見たいものですね。


>Neoさん

前回より擦過傷が多かったですね。そのくらいでは揺るがなかったのも事実ですが。
阿久井が倒れた試合はありますが、中谷戦は力の差として、アブシード戦は試合前からか試合中か忘れましたが、故障があったか何かだったと記憶してます。続く湊義生戦のダウンもありましたね。初回で倒し返して勝ちましたが。あの頃からすると防御も良くなり、闘い方も練れて、コンディショニングも当然、向上していますから、今は脆いということはないと思います。闘い方の選択によって、リスクをどの程度負うかどうかのところは、ちょっと言い切れないですが。
桑原への評価はちょっと違いますが、「品評」をすれば、彼は彼で良いものを持っている。しかし、今回の試合ではその生かし方がどうも見えなかった。速いパンチを出した後の、身の処し方がどうも拙い、その辺は同感です。逆に、あんなに大きく動かずとも、ダックひとつ入れて回れば、小さい動きでも外せるのになあ、とか、色々思うことがありました。それが出来ればまたジャブ打って、次に逃げれば遠ざかれるのに、いっぺんにばーっとやってしまうんですよね。ボクシング漫画をお手本にしているわけでもないだろうに、ちょっと子供じみているなあ、と思ったりもしました。ああいうところ、お手本にすべきは井上拓真じゃないでしょうかね。

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