永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(854)

2010年11月19日 | Weblog
2010.11/19  854

四十六帖 【総角(あげまき)の巻】 その(31)

 薫はお心の内で、

「年頃かくのたまへど、人の御ありさまを、うしろめたく思ひしに、容貌なども見おとし給ふまじくおしはからるる、心ばせの近おとりするやうもや、などぞ、あやふく思ひ渡りしを、何事もくちをしくはものし給ふまじかめり」
――(匂宮が)年来このように取り持ちを私に頼まれておいででしたが、今までは肝心の、中の君のお人柄が気懸りでならなかったことも、先夜間近でお目にかかって、ご器量なども決して匂宮の方にご不満なことは無いに違いないとおもわれますし、気だてが、近づいてみると劣ってみえるようなこともありはしないかと、不安に思ってきましたが、それも残念なことにはならないでありましょう――

 と、お思いになって、

「かの、いとほしく、内々に思ひたばかり給ふ有様も、違ふやうならむも、情なきやうなるを、さりとて、さはた、え思ひ改むまじく覚ゆれば、ゆづりきこえて、いづかたのうらみをも負はじ」
――(中の君がなかなかに好ましい方であってみれば)大君が内々中の君を私に、とのおお心づもりを無にするのは、いかにも情け知らずのようではあるものの、とはいっても、そのような心変わりなどできそうもない。やはりここのところは、中の君を匂宮にお譲り申して、匂宮からも中の君からも恨みは買うまい――

「など下に思ひ構ふる心をも知り給はで、心せばくとりなし給ふもをかしけれど」
――このように、内心薫が思い巡らしているとも匂宮はご存知なくて、薫の態度をなんと狭量なと思っておられるのは、いささか可笑しいのですが――

 薫が、

「例の軽らかなる御心ざまに、物思はせむこそ心ぐるしかるべけれ」
――いつもの浮気な御気性で、中の君に気苦労させるのがお気の毒というものです――

 などと、まるで親代わりのような口ぶりで申し上げます。すると匂宮は、

「よし、見給へ。かばかり心にとまる事なむまだなかりつる」
――よろしい、長い目で御覧なさい。今まで、これ程心を惹かれたことは一度もなかったのだから――

 と、たいそう真面目におっしゃるので、薫は、

「かの心どもには、さもやとうちなびきぬべきけしきは見えずなむ侍る。仕うまつりにくき宮仕へにぞ侍るや」
――姫君たちのお心では、そう簡単に靡きそうには見えないのでございます。まったくこれは骨の折れるお取り持ちですね――

 と、恩着せがましく、宇治にお出かけになる時のご注意など、細々とお教え申し上げます。

では11/21に