永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(1123)

2012年06月21日 | Weblog
2012. 6/21    1123
五十一帖 【浮舟(うきふね)の巻】 その31

「まいて、こひしき人によそへられたるも、こよなからず、やうやうものの心知り、都馴れ行くありさまのをかしきも、こよなく見まさりしたる心地し給ふに、女は、かき集めたる心のうちに、もよほさるる涙、ともすれば出でたつを、慰めかねつつ、『宇治橋のながきちぎりは朽ちせじをあやぶむかたに心さわぐな、今見給ひてむ』とのたまふ」
――まして、浮舟が恋しい大君に似ていると思いますと、ひとしおの思いで、だんだん人の心を知るようになってきて、都の暮らしに馴染んで行く様子も愛らしく、前よりもはるかに見栄え良くなってきていると感じていますのに、浮舟はあれやこれやと物思いの積もった心の中に、せきあげる涙が、ともすれば先立つのを、薫は「あの宇治橋のように、長い二人の契りは絶えることがない筈だから、不安がって心配なさることはありません。私の誠実さはじきに分かるでしょう」とおっしゃいます――

「絶え間のみ世にはあやふき宇治橋を朽ちせぬものとなほたのめとや」
――(浮舟の返歌)ところどころ壊れている宇治橋のように、途絶えがちなあなたを、永久の契りとして、なお信頼せよとおっしゃるのですか――

「さきざきよりもいと見棄てがたく、しばしも立ちとまらほしく思さるれど、人のもの言ひの安からぬに、今さらなり、心やすきさまにてこそ、など思しなして、あかつきにかへり給ひぬ」
――(薫は)今までよりもいっそうこの女を見棄て難く、少しでも長くここに居たいとお思いになりますが、世間の取り沙汰がうるさいので、今更そのようにするより(宇治に通うより)京に引きとってから気安く逢おうと、思い直されて夜明けにお帰りになります――

「いとようもおとなびたりつるかな、と、心苦しく思し出づること、ありしにまさりけり」
――実によくまあ、おとなびたことよ、と、いたわしく思い出されることが、今まで以上なのでした――

「二月の十日の程に、内裏に文作らせ給ふとて、この宮も大将も参りあひ給へり。折りにあひたるものの調べどもに、宮の御声はいとめでたくて、『梅が枝』など謡ひ給ふ。何ごとも人よりはこよなうまさり給へる御さまにて、すずろなること思し焦らるるのみなむ、罪深かりける」
――二月の十日ごろ、内裏で漢詩の会を催されるというので、匂宮も薫も参会なさいました。時節にふさわしい管弦の調べが響く中に、匂宮の御声はまことに麗しく、催馬楽の「梅が枝」などをお謡いになります。この匂宮という方は、何ごとにも人より優れておいでになるご様子ですのに、つまらぬ浮気に夢中になられることだけが、罪深いことですね――

◆「『梅が枝』=催馬楽(さいばら)「梅が枝に来居るうぐいすや、春かけて、鳴けども未だや、雪は降りつつ、あはれ、そこよしや、雪は降りつつ」

では6/23に。