永子の窓

趣味の世界

蜻蛉日記を読んできて(85)の1

2015年12月03日 | Weblog
蜻蛉日記  中卷  (85)の1 2015.12.3


「かくながら二十よ日になりぬる心地、せん方しらずあやしく置きどころなきを、いかで涼しき方もやあると、心も述べがてら浜づらの方へ祓へもせんと思ひて、唐崎へともてものす。寅の時ばかりに出で立つに、月いと明かし。我がおなじやうなる人、また供に人ひとりばかりぞあれば、ただ三人のりて、馬にのりたる男ども七八人ばかりぞある。」
◆◆あの人の訪れがなく、このような状態で二十日過ぎになってしまった心持は、もうどうしようもなくやりきれなくて、どこか涼しいところでもあるかしらと、気晴らし方々、浜辺の方で、是非お祓いもしてみたいと思って、唐崎へと出かけました。寅の時刻に出発しましたが、月がとても明るい。私と同じような人、それに侍女が一人の三人ほどで、一つの車に乗り、また馬に乗った男たち七、八人います。◆◆



「賀茂川のほどにて、ほのぼのと明く。うち過ぎて山路になりて京にたがひたるさまを見るにも、このごろの心地なればにやあらん、いとあはれなり。いはんや関にいたりて、しばし車とどめて牛飼ひなどするに、空車ひきつづけてあやしき木こり下ろして、いと小暗き中より来るも、心地ひきかへたるやうにおぼえて、いとをかし。」
◆◆賀茂川の辺りになって空がほのぼのと明るくなってきました。そこを過ぎて、山路にさしかかると、京とはまるっきり違う風景を見るにつけても、近頃の憂鬱な気持ちのせいか、しみじみと心に沁みるのでした。ましてや逢坂の関に着くと、しばらく車を止めて、牛にまぐさを与えたりしている、そんな折、荷車を何台も引き連ねて、見慣れぬ木を伐り出して、薄暗い木立の中から出てくるのを見ると、気分が変わって、とてもおもしろく感じられました。◆◆

■唐崎(からさき)=大津市坂本の琵琶湖畔。難波と並ぶ著名な祓い所。

■寅の時=午前3時~5時の間。