永子の窓

趣味の世界

蜻蛉日記を読んできて(187)その3

2017年05月02日 | Weblog
蜻蛉日記  下巻 (187)その3  2017.5.2

「雨うち乱る暮れにて、蛙の声いとたかし。夜ふけゆけば、内より『いとかくむくつけげなるあたりは、内なる人だにしづ心なくはべるを』といひ出だしたれば、『なにか、これよりまかづと思うたまへむかし、恐ろしきことはべらじ』と言ひつつ、いたうふけぬれば、『助の君の御いそぎも近うなりにたらんを、そのほどの雑役をだにつかうまつらん。殿に、かうなんおほせられしと御気色給はりて、又、のたまはせんこときこえさせに、あすあさてのほどにもさぶらふべし』とあれば、立つななりとて、張のほころびよりかき分けて見出せば、簀子にともしたりつる火は、はやう消えにけり。」

◆◆雨がひどく降っている夕暮れで、蛙の声がしきりにしています。夜が更けていくので、内から「このあたりは、ひどく気味の悪いところで、家に居るものでも気が落着きませんのに」と言うと、「いえ、どういたしまして。お宅からお暇しますからには、そのような恐ろしいことはございませんでしょう」と言っているうちに、すっかりり夜も更けてしまったので、「助の君のご準備(賀茂の祭の勅使に立つ、その準備)も間近になったことでしょうが、その場合の雑用なりとつとめさせていただきましょう。殿に、こちらでは(道綱母が)このように仰せっれましたことをお伝えして、思し召しのほどを伺って、また殿のお言葉を申し上げに、明日か明後日あたりにでも参上いたしましょう」と言うので、帰る様だと思って、几帳のほころびから、帷子をかき分けて外を見ると、簀子にともしてあった灯火は、とっくに消えてしまっていたのでした。◆◆



「内にはものの後へにともしたれば光ありて、外の消えぬるも知られぬなりけり。影もや見えつらんと思ふにあさましうて、『腹黒う、消えぬとものたまはせで』と言へば、『なにかは』とさぶらふ人もこたへて立ちにけり。」

◆◆内側では、物の後に灯火をともしていたので、明るくて、外の灯火が消えてしまっていることが分りませんでした。こちらの姿が見えていたかもしれないと思うと、ちょっとあきれて、「お人が悪いこと。灯火が消えたともおっしゃらないのですもの」と言うと、「なになに、かまいません」と、控えていた従者も答えて、帰って行きました。◆◆